人間を生き生きと描く物語「こぶとりじいさん」
公開日:
:
最終更新日:2022/07/23
昔話
「こぶとりじいさん」というお話をご存じですか?
ほっぺたにこぶのあるおじいさんが、鬼と踊ってこぶを取られるというお話です。
コミカルでありながら、少し怖い部分もある、日本で古くから語り継がれるお話です。
早速あらすじを見てみましょう。
こぶとりじいさんのあらすじ
むかしむかし、あるところに、右のほっぺたに大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました。
でもそんな事はちっとも気にしない、とてものんきなおじいさんでした。
そして同じ村にもう一人、左のほっペたに大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました。
こちらのおじいさんは、こぶが気になっていつもイライラと怒ってばかりでした。
ある日の事、のんきなおじいさんが山に薪を集めに行くと、ポツリ、ポツリと雨が降り出して、やがて土砂降りになってしまいました。
「これはたいへんだ。ずぶ濡れになってしまう。」と言って、のんきなおじいさんは大きな洞穴に入って雨宿りをしました。そのうちのんきなおじいさんは、ウトウトと眠り込んでしまいました。やがて雨が止んで、夜になりましたが、のんきなおじいさんはぐっすりと眠っています。
真夜中になり、のんきなおじいさんがようやく目を覚ますと、どこからかにぎやかなおはやしの音が聞こえて来るではありませんか。「おや、なんの音だろう?」そう思って、のんきなおじいさんは音のする方へ行ってみました。すると驚いたことに、この山の奥に住む鬼たちが、輪になって宴の真っ最中でした。たくさんの鬼たちが、踊って歌っての大騒ぎです。「なんと!鬼だーー!」のんきなおじいさんはビックリして声も出ません。
楽しいことや踊りが大好きなのんきなおじいさん。最初は怖がっていましたが、そのうち自分も踊りたくてウズウズしてきました。がまんできなくなったのんきなおじいさんは、怖さを忘れて鬼たちの輪の中に飛び込んでいったのです。「なんだ、このじいさんは!?」今度は鬼たちがビックリしています。
鬼が騒いでいるのも気にせず、のんきなおじいさんは楽しそうに踊っています。
とても楽しそうに、上手に踊っているのんきなおじいさんを見て、鬼たちは「これは、うまい!」「人間にしてはたいしたものじゃ」と言って、一緒になって踊り始めました。のんきなおじいさんと鬼たちは、時が経つのも忘れて踊り続けました。
しばらくすると夜明けが明けて、鬼たちが自分たちの住みかに帰る時が来ました。
すると、鬼の親分が「おい、じいさんよ、今夜も踊りに来い。それまでお前の大切なものを預かっておく。」と言って、のんきなおじいさんのほっぺのこぶともぎ取っていきました。
こぶを取られたのんきなおじいさんは、ほっペたをなでながら「おおっ、こぶがない!」と大喜びです。
こぶがなくなったのんきなおじいさんが村へ帰ると、イライラじいさんがびっくりして聞きました。「おい!こぶはどうした!?どうやって取ったんだ!?」
そこでのんきなおじいさんは、昨夜の鬼たちとのことを話して聞かせました。
イライラじいさんは、「よし!それらなわしも、鬼にこぶを取ってもらおう!」と言いました。
その夜、イライラじいさんは山の奥へ出かけて行きました。
しばらくすると、おはやしの音が聞こえてきました。
「よし、あそこで踊れば、こぶを取ってもらえるのだな。それにしても恐ろしい鬼じゃ、、、」
最初は怖がっていたイライラじいさんですが、思い切って鬼たちの前に飛び出しました。
すると鬼たちは、「よく来たな!今日も上手い踊りを見せてくれ。」と言って大喜びです。
でも、鬼が怖くてぶるぶる震えているイライラじいさんは、全然上手く踊れません。
「何だ、あの踊りは!?」「昨日とは、全然違うぞ!?」イライラじいさんの下手な踊りに、鬼たちはだんだん機嫌が悪くなってきました。そして怒った鬼の親分が、イライラじいさんに言いました。
「ええい、下手くそ!約束通りにこれを返してやるから、二度と来るな!」
「ペターン!!!」
鬼の親分は、昨日のんきなおじいさんからもぎ取ったこぶを、イライラじいさんの右のほっぺたにくっつけてしまいました。
こうして、右と左にこぶがついてしまったイライラじいさんは、泣きながら村に帰って行きました。
こぶとりじいさんが教えてくれること
実はこぶとりじいさんのお話は、鎌倉時代初期にまとめられた「宇治拾遺物語」の中の「鬼のこぶ取らるること」の一部なんですね。
宇治拾遺物語は、当時の庶民が生活や、人がしてしまいがちなおかしな行いや、欲深い姿を描いた笑いが中心のお話が多いんです。笑い話の中にもほのぼのとした笑いから、決まりを破った僧を笑いものにするようなお話まで多種多様です。そして、昔話にあるお話の最後の教訓のようなものはほとんど無いんですね。人間そのものを生き生きと描き出しているのが特徴です。
こぶとりじいさんもユーモアたっぷりの笑い話ですが、「人をうらやんではいけない」という教訓が含まれていますね。
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