電子書籍が書店の新たな価値を生み出す
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電子書籍
「この本の電子版ってあるかな?」
書店に本を見に行った時に、そんな風に思うことってありますか?
私は電子書籍出版事業を行なっていますが、紙も電子も購読します。ビジネス書やハウツー系の本は、欲しい情報が本の中の一部分だったりすることもあるので、電子書籍があれば購入してすぐにサクッと読みます。古いものや小説、組版されたものは紙の本で読みます。子どもの絵本は、ネットで情報を見て、書店で紙の本を買います。
なので、書店にもよく足を運びます。その時、この本は電子版あるのかな?と思ってスマホで調べることが結構あるんです。電子版があれば、その場でワンクリックで購入して、書店を出ることも多々あります。これだと、書店の売上にならず、なんとなく申し訳ないな、、、と思っていましたが、書店で電子版を買うことで書店の売上に繋がる仕組みが登場しました。
デジタルと書店の融合が新しい書店の価値を生み出す?
著作物のデジタル流通を営む電子書籍取次大手のメディアドゥと、出版物専門商社であり取次会社のトーハンは、「書店の紙の出版物を接点に、デジタルコンテンツを活用した全く新しい体験を生みす」という目標を掲げて、昨年3月に業務資本提携を締結しました。
メディアドゥはブロックチェーンの技術を活用して、書店を紙の出版物とデジタルを組み合わせた新しい体験の場にしていくと明言しました。具体的には、「NFT」を利用して、書店で本を購入したユーザーに数量限定のデジタルコンテンツをNFTのデジタル資産として付与するモデルを展開するとしていました。この事業では、書店の店頭業務に負担をかけず、全国の書店のイベントで活用できるとしていたんですね。さらに、デジタル教科書や電子図書館についても、全国の書店が流通に参加できるような事業の検討を進めるとしています。
また、メディアドゥの出版マーケティングサービスを多くの出版社が活用できるようにし、トーハンとの相乗効果で返品状況の改善を目指す取り組みや、メディアドゥとトーハンで販売情報を一元化し、マーケティング情報を出版社と電子を含む書店で共有することも目指していました。
この取り組みが4月1日から具現化されることになりました。メディアドゥとトーハンが共同で、書店店頭で電子書籍を販売する実証実験をスタートしました。期間は4月1日から9月30日までの6カ月間で、実施店舗は八重洲ブックセンター本店、ブックファースト新宿店、ブックファースト中野店の3店舗。順次トーハングループ書店の他店舗へ拡大予定とのこと。
書店をショールーミングの場にしない仕組みはユーザーファーストになりえるか?
仕組みとしては、ユーザーが自分のスマートフォンを利用して、書籍やコミックスのバーコードをスキャンすることで、メディアドゥが運営する電子書店「スマートBookストア」を通じて、その本の電子版を試読・購入することが可能になるというもの。書店は電子書籍の販売数に応じた手数料を得ることができます。対象の電子書籍は約30万点で、電子化済みの商品を集めた「電子書籍フェア」コーナーを各店に設置します。
また、この実験では、電子書籍のクーポンを配布するキャンペーンも行なうとのこと。
・店頭の特設コーナーでスマートBookストアの新規会員登録をする
・店頭で電子書籍の購入後、アンケートに協力する
この2つの条件を満たすことで、1つ満たすごとに1,000円分の電子書籍クーポンが配布されるそうです。
今回のこの取り組みは、電子書籍によるデジタル市場の成長力をリアル書店に取り込むことで、書店の新たな価値の創造につなげていきます。メディアドゥとトーハンは、出版社に向けて紙書籍の積極的な電子化を呼びかけていくといいます。
ピーク時に30,000店舗を超えていた日本の書店数は、現在10,000店舗を割り込もうとしています。全国どこでも同じ本を同じ価格で購入することが出来るという、ある意味で素晴らしい日本の書店流通の制度が、アマゾンという黒船の来航によって制度疲弊を起こし、品揃えと利便性に対抗する策を講じることができず、右肩下がりの書店数と出版不況を生み出してしまいました。
アマゾン来航から20年を超えて、ようやく日本の出版業界が動き出した感があります。
ただ思うのは、果たして書店で手にした本を買わずに、アプリでバーコードをスキャンしてまで電子版を購入しようとする人が、今の日本にどのくらいいるのかということです。クーポンの配布だけで、これまでの消費行動が劇的に変わるかも疑問ですね。
とはいえ、私は是非八重洲ブックセンターで試してみたいと思います。
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