家事を防ぐ日本の風習「火伏せ」
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最終更新日:2024/01/11
昔話
冬本番。朝晩の寒さが身に沁みますね。
寒さもそうですが、この季節は乾燥がすごくないですか?室内で暖房器具を使っていると、みるみるうちに湿度が下がっていって、服を脱ぐときには、静電気の嫌なパチパチが発生しますね。乾燥した日が続くと心配なのが火事。ちょっとした火の不始末が、大きな火災を生むことが多々あります。今の季節は特に気をつけたいですね。
残していきたい日本の風習「火伏せ」
さて、皆さん「火伏せ」という言葉を知っていますか?
火伏せは、 火災を防ぐことをさします。 特に神仏が霊力によって火災を防ぐことを意味しています。煮炊きをしたり、暖を取ったりと、火は私たちが生活していくためには欠かせないものですが、 火事になると大変なことになる、恐ろしいものでもあります。昔の家は木造で草ぶきの屋根だったので、一度火がつくと燃えやすいうえに、火を消す設備も十分に整っていなかったため、一度火事が起きるとなかなか火が消せませんでした。ですので、火事は大変恐れられたものだったんですね。 そのため火災を防ぐためのおまじないをする風習が多くあったのです。
神事の一つで、大寒後の初めての丑の日に、御神水を汲んで一年間神棚や荒神様にお供えし、翌年家の周りに撒くと火事にならないというものがあります。またその際、火伏せの神様を祀る神社のお札も貼ります。火事を防ぐ神仏の社寺だと愛宕神社や古峰神社が有名ですね。
他にも、屋根の煙が出るところなどに「水」や「龍」の文字を書いたり、十二月十二日に十二歳になる子どもに「十二月十二日火の用心」 と書いてもらった紙を貼ったり、おかま様(火をつかさどる神として、かまどや台所にまつられる神)をまつっているしめ縄を取り外し、 屋根をふき替える時にその縄を屋根に納めるといった、様々な風習が今でも残っている地域もあります。
現在は、一家に一つ消火器やスプレータイプの消化剤があったり、火災になる前に知らせてくれる火災報知機が付いていたり、オール電化で火そのものを使わないという家庭もあり、昔と比べて火災の心配は随分と減っているかと思いますが、それでも十分に気をつけたいものです。私は今年初めて、火伏せの神様の御神水を頂きました。大切に神棚に供えて、火事を防いでもらおうと思います。
火事の時には素早い行動を
さて、今日は家事にまつわる昔話をひとつ。
皆さんも一度は聞いたことがあるかもしれない、とんち者吉四六さんが登場するお話です。
『吉四六の火事騒動』
むかし、豊後の国(今の大分県)に吉四六さんというとても面白い男がおりました。
あるとき、吉四六さんの村で真夜中に火事がありました。
村中が寝静まっていて、気がついたのは便所に起きた吉四六さんだけ。
「こりゃ大変だ!庄屋さんに早いとこしらせなきゃ!」
そう思って走り出そうとした吉四六さんでしたが、その時、日頃から庄屋さんに言われている言葉を思い出しました。
「こりゃ吉四六、お前はあわてもんでいかん。走り出してから考えるのじゃなく、考えてから動きなさい」
「おっと、いかん。こういう時こそ落ちつかなくては。先ずは、かまどに火をつけて、それから湯を沸かして、、、」
吉四六さんは、沸いたお湯で顔を洗い、ついでに念入りにひげを剃りました。
「いや、これだけではいかんな。庄屋さんは村一番の偉いお人じゃ、粗末な格好では失礼になる」
そう言うと、長持ち(衣類や蒲団、調度品等を入れておくフタ付きの大きな箱)から古びた羽織袴を取り出して着込み、右手に白い扇を持ちました。
「だいたい、こんなもんでええじゃろ」
そうして吉四六さんは、落ちついてゆっくりゆっくり庄屋さんの屋敷へ行き、雨戸の外から礼儀正しく声を掛けました。
「ええ、お庄屋さま、ええ、お庄屋さま!ただいま火事でございまする」
と、ぼそぼそ言っていると、その声で目を覚ました庄屋さんが寝ぼけまなこで出て来ました。
「なんだ吉四六か?!こんな真夜中にそんな格好をして、一体何事だね?」
「ええ、ただいま火事でございまする」
「な、なに!?いま何というた!」
「ええ、ただいま火事でございまする」
いっぺんに目が覚めた庄屋さんは、火事場にすっ飛んで行きました。
吉四六さんもその後ろをついて行きました。
「ありゃ、すっかり燃えてしもうた!こりゃ吉四六、夜中に火事がある時は、大急ぎで戸を叩いて大声で叫べ。ええか!!」
と庄屋さんが言うと、
「へい、次からは、そうしましょう。けど庄屋さんはいつも、『男はいざという時は落ち着いて、身なりもきちんとせよ』と、言っていたではありませんか」と吉四六さん。
「それも、時と場合によるわ!そのくらいの事をわきまえないでどうする!」と庄屋さんに叱られてしまいました。
「へい」と返事はしたものの、せっかく火事を知らせてあげたのに、こんなに文句を言われては面白くありません。
さて、それから幾日かたったある晩のことです。
吉四六さんは、丸たん棒を持って庄屋さんの屋敷へ向かいました。
そして、大声で「火事だあ、火事だあ!」と叫びながら、丸たん棒で雨戸をドカン、ドカンと叩きました。
その音に、庄屋さんがびっくりしてとび起きて来ました。
「何だ、何だ、何ごとだ吉四六!?」
「火事だ、火事だ!」
「わかった、わかった。そんなに叩くな、家が壊れる。で火事はどこだ?」
と聞かれた吉四六さんは、
「庄屋さん、今度火事があったときにゃ、こんくらいでよろしいござんすか?」
と、すました顔で聞きました。
吉四六さんのお話はとんち者の笑い話ですが、やはり火事を見つけたら、一刻も早く大きな声で知らせた方がいいですね、、、。
まだまだ乾燥した日が続きますので、皆さん火の元には十分気をつけましょう!
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