命を狙われた侍!カギを握るのは…おはぎ?ー日本の民話ー

公開日: : 昔話

立冬を過ぎたにもかかわらず、あたたかい日が続きますね。ここ数日は日中汗ばむくらいの陽気です。朝晩はだいぶ冷え込んできましたが、冬というよりようやく今から秋が来る感じです。
「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、暑さは彼岸あたりがピークじゃないかと思うほど。四季の中でも春と秋の存在が徐々に薄くなっている気がします。

春と秋といえば、春分の日、秋分の日がありますね。昼と夜の長さが等しくなる日とも言われ、お彼岸の中日として、この日にお墓参りに行く人も多いでしょう。1947年(昭和22年)に廃止されるまで、毎年2回、春分日には春季皇霊祭(しゅんきこうれいさい)、秋分日には秋季皇霊祭(しゅうきこうれいさい)が斎行されていました。

皇霊祭は、歴代の天皇・皇后・皇親の霊を祭る儀式で、宮中祭祀のひとつです。お彼岸に最も近い戊の日は、社日として氏子が氏神たる神社に参詣し、春は五穀豊穣を祈り、秋は実りある収穫に感謝する習わしがありました。一般には春分の日、秋分の日となりましたが、宮中では従来通りの春季皇霊祭・秋季皇霊祭が行われているんですね。

「おはぎ」と「ぼたもち」を何と呼びますか?

さて、お彼岸の先祖供養のお供え物といえば、「おはぎ」と「ぼたもち」が定番ですね。
おはぎとぼたもちは似たような食べ物であり、今では分けて呼ばれることも少なくなっています。もともとおはぎとぼたもちでは作る季節に違いがあり、別の呼び名もありました。おはぎとぼたもちは、形状やあんこの種類で呼び方を分けることもできますが、地域による呼び方の違いもあります。

ぼたもちとおはぎは、それぞれ作る季節に違いがあり、その季節の花の名前に由来していると言われれています。春に作るぼたもちは、小豆を牡丹の花に見立てたことから、「ぼたんもち」と呼ばれていたのが「ぼたもち」に変わったと言われています。一方のおはぎは、秋の七草のひとつである萩の花と小豆の形状が似ているため、「おはぎもち」と呼ばれていたのが「おはぎ」に変わったとされています。

地域によっても呼び方はいろいろで、今でも徳島県や群馬県の一部地域では、ぼたもちやおはぎのことを「半殺し」や「本殺し」と呼ぶそうです。「半殺し」とは、ごはんを潰す際に粒が残る状態にしたもの。粒が残らない滑らかな状態にしたものが「本殺し」で、「皆殺し」「全殺し」とも呼ばれます。これ、知らないで聞いたら、びっくりしますよね(汗)。

そんな呼び方の違いを笑い話にした、日本の民話があります。
「半殺しとお手打ちと本殺し」というお話。タイトルだけ聞くと物騒な感じですが、とても面白いので、あらすじを見てみましょう。

『半殺しとお手打ちと本殺し』のあらすじ

むかし、ひとりの侍が旅をしていました。
山の中で日が暮れてしまい、真っ暗な山の中をあちこち歩き回って、ようやく一軒の家を見つけました。

家の戸を叩くと、中から「戸は開きますで。」というおじいさんの声がしました。
侍は、戸を開けて家の中に入り「今夜一晩だけ泊めていただけませんか?」と頼みました。
すると、囲炉裏端で縄をなっていたおじいさんとおばあさんは、
「ええとも、ええとも、なあ、ばあさんや。」「ええ、困ったときはお互いさまです。」
 と言って、快く招き入れてくれました。
侍はあったかいお粥をご馳走になり、隣の部屋で休ませてもらいました。
旅の疲れからか、侍はすぐに眠りにつきました。

真夜中ごろ、侍はお爺さんとお婆さんのひそひそ話にふと眼をさましました。
耳を澄ますと、「明日は半殺しがいいか、それともお手打ちがいいかね?」というおじいさんの声。
そして、「江戸のお侍さんだから、半殺しがいいかも知えませんね。」と答えるおばあさんの声。

それを聞いた侍はびっくり!
「これは、山賊の家かもしれん。とんだところへ泊ってしまった、、、。」
こうなったらもう寝ているどころではありません。侍は刀を抱いたまま、布団の中でじっと様子をうかがうことにしました。油断することなく四方八方に気を配って、すっかり気疲れした頃、朝になりました。

「はて?襲って来るのは夜のうちかと思ったが、、、。さては、油断させておいて、不意をつく気だな。そうはさせん!」侍はいつでも刀を抜けるように身構えて、その時を待っていました。
すると、隣りの囲炉裏端のあたりで、コトコト音がして、
「ばあさんや、半殺しはまだか?」「もう少しだよ、おじいさん」という会話が聞こえて来ました。

侍は「いよいよ来るか!よし、こっちから踏み込んでやる。」と、刀を掴むやいないや、パッと隣の部屋へ飛び込みました。
するとおばあさんが、「おや、お侍さん、もう起きたのかね?」と、のんびりと声をかけてきました。

侍が拍子抜けして、ふとおばあさんの手元を見ると、しきりにすり鉢で何かをこねています。
「はて、何だかおかしな具合だな、、、。」そう思いながら侍がぽかんとしていると、おばあさんは、「何もないけど、半殺しでもご馳走しようかと思ってな。」といって、出来立てのぼた餅をひとつ、手に乗せて見せました。

「なんと、半殺しというのは、このぼた餅のことか!?」
侍が「お婆さん、では、お手打ちというのは何のことかね?」と尋ねました。するとおばあさんは、「はぁ、お手打ちかい。それは、家で作ったそばきりのことだよ。本殺しといえば餅のことだよ。」とにこにこしながら答えました。
侍は、これを聞くと一気に気が抜けて、その場にドスンと腰をおろしてしまいました。

昔話が教えてくれる文化・風習の違い

というお話です。すり鉢ででこねていたからいいものの、万が一おばあさんが包丁でも研いでいたら、どうなっていたことか、、、(笑)。緊迫した状況が、一気にほのぼのとしたものに変わるのが、このお話の面白いところですね。

日本は南北に長く、全国各地で様々な風習や文化が根付いています。食べ物の名前やお祭りひとつをとってもみても、まったく違った呼び名、地方独特の祝い方があります。そして、それにまつわる民話や昔話がたくさん存在するんですね。皆さんの住んでいる地域、故郷にはどんな民話や昔話がありますか?自分のルーツを知る上でも、民話や昔話はとても興味深いものですね。

関連記事

人と変わった事をすると思いがけずいい事がある!?

2024/01/26 |

早いもので新しい年になって間もなく1ヶ月が終わろうとしています。 街は新春セールから恵方巻きの文字...

記事を読む

ご存じですか?一寸法師の裏の顔

2022/09/07 |

むかし、子どものないおじいさんとおばあさんが、神様に願かけをして、小さな子どもを授かりました。その子...

記事を読む

春を彩る女性の袴

2022/03/04 |

3月といえば卒業式シーズン。 今年も袴姿に花束を抱えた学生さんたちを各所で見かけるのでしょうね。 ...

記事を読む

一芸が身を助けた!〜天狗とこま〜

2021/12/10 |

12月も10日となりました。 師走というとなんとなく忙しなく、他の月に比べて時の流れが早い気がしま...

記事を読む

  • 企業メディア化真価道場
  • 日本の昔ばなし名作シリーズ1

    日本の昔ばなし名作シリーズ1
    発売日 : 2021/12/19
    オモイカネブックス
    ¥1,250 (電子版)
    ¥2,178 (ペーパーバック)

  • 日本の昔ばなし名作シリーズ2

    日本の昔ばなし名作シリーズ2
    発売日 : 2021/12/19
    オモイカネブックス
    ¥1,250 (電子版)
    ¥2,178 (ペーパーバック)

  • 日本の昔ばなし名作シリーズ3

    日本の昔ばなし名作シリーズ3
    発売日 : 2021/12/19
    オモイカネブックス
    ¥1,250 (電子版)
    ¥2,178 (ペーパーバック)

  • 失敗しない家づくり読本

    失敗しない家づくり読本
    発売日 : 2021/3/27
    一般社団法人コミュニティービルダー協会 (著)
    ¥500 (電子版)

  • THE REAL RICH LIFE

    THE REAL RICH LIFE
    発売日 : 2021/1/29
    Hikaru Deguchi (著)
    ¥1,028 (電子版)
    ¥2,519 (ペーパーバック)

  • 天使との対話

    天使との対話
    発売日 : 2021/1/16
    中西 識叡子 (著)
    ¥800 (電子版)
    ¥1,452 (ペーパーバック)

  • Japanese Style
    発売日 : 2021/1/13
    Hironobu Ishikawa (著)
    ¥834 (電子版)
    ¥2,201 (ペーパーバック)

  • TSUNAGU モンゴル×日本
    発売日 :2020/3/15
    ガンフヤグ テンギスボルド(著)
    ¥500 (電子版)
    ¥990 (ペーパーバック)

  • 子供たちに伝えておきたい“日本のこと”
    発売日 : 2019/12/28
    飛岡健 (著)
    ¥528 (電子版)
    ¥1,430 (ペーパーバック)

  • SDGsに取り組もう 建築業界編
    発売日 : 2019/12/25
    浄法寺 亘 (著)
    ¥550 (電子版)
    ¥1,320 (ペーパーバック)

  • 頼みたくなる住宅営業になれる本
    発売日 : 2019/12/25
    浄法寺 亘 (著)
    ¥800 (電子版)
    ¥1,430 (ペーパーバック)

  • ビジネスに役立つ 日本の偉人の仕事術
    発売日 :2019/9/5
    オモイカネブックス(著)
    ¥864 (電子版)
    ¥1,782 (ペーパーバック)

  • と金志士 上巻
    発売日 : 2019/7/26
    オモイカネブックス(著)
    ¥540 (電子版)
    ¥1,430 (ペーパーバック)

  • 大人のための科学的勉強法
    発売日 : 2019/7/18
    福井一成(著)
    ¥700 (電子版)

  • 不調リセット
    発売日 : 2019/6/10
    竹井仁(著)
    ¥1,058 (電子版)

  • たるみリセット
    発売日 : 2019/6/10
    竹井仁(著)
    ¥1,058 (電子版)

  • 食品異物対策
    発売日 : 2019/6/4
    中村茂弘(著)
    ¥500 (電子版)

  • 技術・技能伝承法
    発売日 : 2019/6/4
    中村茂弘(著)
    ¥500 (電子版)

  • ドクター福井の開成流勉強術
    発売日 : 2019/5/22
    福井一成(著)
    ¥700 (電子版)

  • 世界を解く数学
    発売日 : 2019/5/22
    河田直樹(著)
    ¥800 (電子版)

  • TSUNAGU スロベニア×日本
    発売日 : 2019/2/27
    ニーナ・ハビャン(著)
    ¥500 (電子版)

  • 春ちゃんのマシュマロタイム
    発売日 : 2019/2/19
    今井真理子(作)
    こばやしまりこ(絵)
    ¥800 (電子版)

  • 科学で考えるごみゼロの未来
    出版社 : 2018/9/15
    広瀬立成(著)
    ¥480 (電子版)
    ¥815 (ペーパーバック)

  • とっておきの見込み客発掘法

    とっておきの見込み客発掘法
    出版社 : 2018/9/13
    石川博信 (著)
    ¥840 (電子版)
    ¥1,430 (ペーパーバック)

  • 日本列島ダニさがし
    発売日 : 2018/5/13
    青木淳一(著)
    ¥600 (電子版)

  • KARADAチューニング
    発売日 : 2018/3/19
    外薗明博(著)
    ¥600 (電子版)
    ¥1,284 (ペーパーバック)

  • 障がい者アートの未来を探して
    発売日 : 2018/2/1
    熊本豊敏(著)
    ¥600 (電子版)
    ¥1,078 (ペーパーバック)

  • 建築神殿論
    発売日: 2017/12/25
    武田暁明(著)
    ¥600 (電子版)
    ¥1,386 (ペーパーバック)

  • 我は日本人なり
    発売日 : 2017/6/26
    竹元正美(著)
    ¥600 (電子版)
    ¥1,078 (ペーパーバック)

  • おみず
    発売日 : 2017/4/1
    AKI (絵・作)
    ¥840 (電子版)

  • 国境を越えたサムライ先生
    発売日 : 2017/2/21
    外薗明博(著)
    ¥600 (電子版)
    ¥1,386 円(ペーパーバック)

  • 島嶼見聞録
    発売日: 2017/2/19
    木越祐紀子(著)
    ¥480 (電子版)
    ¥1,320(ペーパーバック)

Translate »
PAGE TOP ↑