言葉の勘違いを楽しむ「古屋のもり」
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昔話
言葉の勘違いってありませんか?
「橋」と「箸」、「雲」と「蜘蛛」など、日本では同じ音で別の意味を表す言葉がたくさんあります。最近では、SNSやメールなどでの誤変換が結構話題になりますね。
そんな言葉の勘違いを笑い話にした、日本の昔話があるんです。
古屋のもり
むかしあるところに、貧乏なお爺さんとお婆さんがいて、馬を一頭飼っていました。
ある晩、お婆さんが、「山から狼が馬を食いにこないか心配だなあ。狼くらいこわいものはない」と言うと、お爺さんは、「おらあ、狼よりも古屋のもりがおっかねえ」と言いました。
ちょうどそのとき、山から馬を食おうとやってきた狼がこの話を聞いていて、「古屋のもり」はよほど恐ろしいものだろうと思いこみました。
そしてそこには、馬を盗みに入った泥棒も屋根裏にいて、同じように「古屋のもり」はどれだけ恐ろしいものなんだと想像していました。
まもなく雨がぽっぽつ降りだすと、「そろ古屋のもりがやってくる」と言って、お爺さんとお婆さんが、鍋や釜をどたばたと準備し始めました。
それを見た狼は、「古屋のもり」に食われまいと逃げだそうとします。その時、同時に馬泥棒も慌てて逃げ出そうとしました。屋根裏から逃げ出そうとした馬泥棒は足を滑らせて、狼の上に落ちてしまいます。
背中に何かが落ちてきた狼は、「古屋のもり」につかまったと思って必死に逃げ出しました。
そして馬泥棒の方も、「古屋のもり」に乗ってしまったと思い、振り落とされまいと狼の首に必死にしがみつきます。
暗い夜道を背中に馬泥棒を乗せて走る狼。振り落とされないようにしがみつく馬泥棒。
徐々に夜が明けてきた時、馬泥棒は自分が狼に乗っているのに気がついて驚きます。馬泥棒は大木の近くを通った際、必死で手を伸ばして枝に掴まり、狼の背中から逃れました。
ほっとしたのも束の間、馬泥棒は木に空いていた大きな穴に落ちてしまいます。
一方、山へ逃げ帰った狼は、仲間に「古屋のもり」の話しをしました。
それを聞いていた猿が、そんなやつがいるわけない、自分が様子を見てくると言って穴を覗きに行きます。そして猿が穴の中に長い尻尾を垂らしてみると、中にいた馬泥棒が尻尾にしがみつきます。慌てた猿が懸命に引っ張ると、尻尾が根本からぷっつり切れてしまいました。
猿の尻尾が短いのは、この時からなんです。
恐ろしい古屋のもりの正体とは?
というお話。
前半の「恐ろしい古屋のもり」に関する話から、後半は猿の尻尾が短い理由に大転換するお話なんです。
これは宮城県の民話なのですが、日本ではもっとも分布の広いお話の1つです。
日本ばかりでなく、中国、朝鮮など、アジア各国にもこの型のお話があります。中国では、日本に似た「雨もりがこわい」、朝鮮では「ほし柿が虎よりこわい」という話になっています。
で、結局「古屋のもり」って何かと言うと、もうお気づきかもしれませんが、「古い家屋の雨漏り」のことなんですね。
この話は、言葉の勘違いで大騒ぎになる笑い話として位置付けられていますが、その裏には、かつての日本の農村の厳しい生活状況を垣間見ることができます。
古い家に住むお爺さん、お婆さんのように、貧しくて労働力にならない年寄りだけの家は、村の組織から外されてしまうことで、朽ちた屋根を葺き直してもらうこともできない暮らしを強いられていたんですね。
笑い話もたくさんある日本の昔話ですが、そこにはかつての日本の文化や暮らしの実情を見ることができます。みなさん、もう一度日本の昔話を読み直してみませんか?
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