現代文化のルーツを探る㉛ 菖蒲湯
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最終更新日:2021/04/30
現代文化のルーツ
5月5日端午の節句が近づいてくると、スーパーには「菖蒲」が並びますね。
普段はほとんど見ることのない「菖蒲」。4〜5月のこの時期になるとその姿を現します。端午の節句は菖蒲湯に入るという慣わしがありますよね?皆さんは毎年菖蒲湯入っていますか?
さて、そもそもなぜ端午の節句に菖蒲湯に入るのでしょう?
今日は「菖蒲湯」のルーツを探ってみたいと思います。
邪気を祓うために用いられた菖蒲
「菖蒲湯」の由来は、古代中国で始まった「端午の節句」の風習にあります。この頃の「端午の節句」は、邪気や魔物をはらう「厄祓い」の行事でした。当時の中国の人達は、この季節に起こる大雨による被害や病気の流行、更にはものが腐りやすいといった事は、すべて「邪気や魔物の毒気のせい」と考えていました。
この頃の「端午の節句」のある「旧暦の5月初め(現在の6月初め~中旬)」は梅雨の季節にあたりますが、中国でも長雨の時期になります。雨季を迎える5月は病気や災厄が増えることから、邪気を祓うために菖蒲を使用したのです。
菖蒲はその強い香りから「邪気を祓う」効果があるとされた「菖蒲」や「よもぎ」などの薬草を摘んで飾ったり、菖蒲酒にして飲んだり、葉や根を束ねてお風呂に入れる「菖蒲湯」に浸かったり、といった風習が生まれました。
その後、奈良時代に中国の「端午の節句」の風習が日本へは伝わりました。
奈良時代の日本の慣わしと融合
それ以前は、日本では5月のこの時期には年若い「早乙女(さおとめ)」が、田植え前の「禊(みそぎ)」として「菖蒲」で身を清める「五月忌み(さつきいみ)」を行なっていました。早乙女たちは刻んだ菖蒲の根を浸して作った「菖蒲酒」を飲んで、その身を清めました。
この日本古来の習わしが、中国から伝わった「端午の節句」と結びついて、菖蒲を使った様々な風習が生まれていったんですね。中国同様、日本でも5月頃は季節の変わり目で病気になりやすかったため「毒月」と呼ばれ、昔は菖蒲やよもぎなどの薬草を食して毒を祓おうとしていました。
菖蒲を食したり酒として飲む以外に、奈良・平安時代の貴族たちは、厄除けのために菖蒲を軒先や屋根に飾ったり、菖蒲の葉を球形に編んだ中によもぎなどの薬草を入れた「薬玉(くすだま)」を作って吊るしたりしていました。また、端午の節会では、香りの強い菖蒲を身に付けたりもしていました。
鎌倉時代から江戸時代になる頃には、端午の節句は男の子の行事として認知されます。
武家社会であった当時は、菖蒲を「勝負」「尚武」などの言葉にかけて、男の子が逞しく成長することを願いました。端午の節句に菖蒲の葉を刀に見立てて飾ったりして、盛んにお祝いしていたといわれています。鎧などに型どった「菖蒲紋」や「鱗(うろこ)紋様」は厄除けの象徴だったといいます。なお、菖蒲の色「浅黄色(あさぎいろ)」も「厄除け」を表し、衣装などに使われていたといいます。
江戸時代の庶民の子どもたちの間では、編んだ菖蒲の葉を地面に打ちつけて音の大きさを競い合う「菖蒲打ち」という遊びもあったそうです。「菖蒲綱引き」という競技もあり、今でも兵庫県では「旧暦の端午の節句(6月初め)」に毎年行われているんですね。
食からお風呂まで 体に良い菖蒲
奈良時代の「菖蒲酒」は、細かく刻んだ菖蒲の根を浸して作った「お酒」でしたが、それ以外に菖蒲の根を煎じて飲む「菖蒲湯」というお茶もありました。これが現在、菖蒲の葉や根を湯に入れて入る「お風呂の菖蒲湯」の由来となっているともいわれます。それと、本来の「菖蒲湯」は、菖蒲の葉や根を束ねて直接お風呂に入れて沸かすものではなく、5月4日の晩に枕の下に菖蒲をしいて「菖蒲枕」を、5月5日にお風呂の湯に浮かべて無病息災を願ったものという説もあります。中国から伝わり、日本の慣わしと融合して現在に続く菖蒲湯の文化。季節の変わり目は昔も気をつけていたんですね。
さて、最後に菖蒲湯の入り方と効果について。菖蒲を10束ほどにまとめ、42~43℃ほどの熱めのお湯につけるだけで完成です。菖蒲湯はリラックス作用や血行促進が期待できる他、肩こりや腰痛予防にも効果があると言われます。
ちなみに菖蒲は、とくに根の部分を乾燥させることで、リラックス効果・血行促進・肩こり・腰痛予防・冷え性・筋肉痛・リウマチに効果を発揮する生薬「菖蒲根」「白昌」となりますよ。
5月5日には、家族みんなで菖蒲湯に浸かりましょう!
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