現代文化のルーツを探る㉒ お食い初め
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現代文化のルーツ
皆さんお食い初めの記憶はありますか?
ないですよね(笑)あったらびっくりです。お子さんがいらっしゃる方はご経験があるかと思いますが、お食い初めとは、新生児の生後100日目に行われる儀式のことですね。子どもの健やかな成長と、一生食べ物に困らないようにという想いをこめて行います。実はこの儀式はとっても古いものなんです。
今日はお食い初めのツールを探ってみたいと思います。
お食い初めは、「真魚(まな)始め」または「食べ初め」、初めて箸を使うので「箸揃え」「箸初め」とも呼ばれるほか、祝う時期が生後100日前後であることから「百日(ももか)の祝い」「歯がため」と呼ぶ地域もあります。室町時代には生後101日目、江戸時代には生後120日目に行ったとも言われています。個人差はありますが、新生児は生後100日頃に乳歯が生え始めるため、この時期に「一生食べることに困らないように」という願いを込めて、食事をする真似をさせます。きっちり100日じゃなくても大丈夫。赤ちゃんの成長や体調を見ながら日を選ぶといいですね。
「お食い初め」の歴史は古く、平安時代から行われている伝統行事です。平安時代、赤ちゃんにお餅を食べさせる「百日(ももか)」という行事があり、これがお食い初めの始まりといわれています。昔は今と違い、衛生面や栄養面がよくなかったので、子どもが無事に育つことがとても難しかったんですね。そのため、節目節目で子どもの成長を祈る儀式やお祝いが行われていました。
元々は、生後50日目に当たる日に、重湯の中に五十日の餅(いかのもちい)と呼ばれる餅を入れ、その餅を箸を使って子供の口に少し含ませる五十日の祝いとして行われていました。この際は、子供の口に餅を入れるのは、父親か祖父の役目だったそうです。「五十日(いのか)の祝い」から始まり、それがやがて100日を祝うようになり、鎌倉時代に食べさせるものが餅から魚肉に変わったことで、「真魚(まな)初め」と呼ばれるようになりました。
別の説としては、皇室で今でも行われている「箸初の儀」(はしぞめのぎ)がお食い初めの始まりという説もあります。
この儀式では、大高檀紙(おおたかだんし。金屏風などに使われる丈夫な和紙)で金頭を包み、「歯が丈夫になりますように」という願いを込めて、青石がお膳に置かれます。平安時代に皇室が行っていた「箸初めの儀」が公家に伝わり、そこから武家、一般へ「お食い初め」として広がったともいわれいるんですね。
諸説あるお食い初めですが、いずれにしてもとても歴史のある日本の伝統行事なんです。
伝統的な形の「お食い初め」は、一汁三菜の「祝い膳」が用意されるのが一般的なものとなっています。
昔ながらの日本の食事は、一汁三菜が基本となっています。一汁三菜は、ご飯に汁物、おかず3品(主菜1品、副菜2品)で構成された献立で、厳密には、飯、汁物、香の物、なます、煮物、焼物であり、飯と香の物は数えません。一汁三菜には「三角食べ」の意味もあり、それぞれの料理を三角を描くように順番に食べることで、バランスよく早食いを防ぎ、胃腸に負担をかけないようにするという意味があります。赤ちゃんの成長を願うお食い初めも、まんべんなく栄養を摂取することができる一汁三菜の食べ方にあやかっているのでしょうかね。
地域ごとにさまざまな食材がありますが、代表的な献立は、鯛など尾頭(おかしら)つきの魚と、赤飯、吸い物、煮物、香の物で、それぞれの食材には特有の意味があります。
■尾頭付き魚
お食い初めに欠かせない尾頭付き魚といえば鯛です。頭から尻尾まで一匹丸ごと用意するのは、「首尾一貫(初めから終わりまで全うする)」の意味から、長寿の願いが込められています。「めでたい」という語呂合わせもありますが、鯛は体の色や寿命・味・栄養価の高さから一番の縁起物食材とされてきました。鯛の体は鮮やかな赤色で、神様が好む色・邪気を祓う色といわれ、神様への献魚としても重用されてきたんですね。
■赤飯
古来から邪気を祓う力があると信じられてきた赤という色から、赤飯はお祝いの席でよく見かけますね。赤ちゃんが病気や災難に遭わず、健やかに成長してほしいという願いが込められています。
■はまぐりのお吸い物
お吸い物には、吸う力が強くなるようにという意味が込められています。お食い初めでは蛤のお吸い物が用意されることが多いですね。蛤は二枚貝がぴったりと合うことから、良い伴侶に恵まれ幸せになってほしいという願いがこめられています。
■煮物
紅白でおめでたい人参、大根、かぼちゃ、「よろこぶ」にかけた昆布が縁起物食材として使われます。そのほか、穴があいていることから、先が見える、明るい先行きを表す蓮根も重宝されますね。さらに、まっすぐにすくすくと成長するようにという意味でたけのこも用いられます。
■香の物
香の物は漬物のこと。香の物には長寿の意味があります。香の物の代わりに、紅白なますなどの酢の物が用いられることもありますね。また、たこの酢の物も「多幸」にかけて用意されることも。
これらの食材を、「ご飯→お吸い物→ご飯→お魚→ご飯→お吸い物」の順番に3回繰り返し、最後に歯固めの儀式を行います。
「歯固めの石」は、正式には黒、赤、白の3種類の石を使いますが、今はこだわらないことが多いですね。小石3つを食膳に添えて、赤ちゃんに石のような丈夫な歯が生えますようにという願いを込めて「歯固め」という儀式を行います。 これは歯固めの石にお箸を軽くあてて、そのお箸を「石のように丈夫な歯が生えますように」と祈りながら、赤ちゃんの歯茎に軽くちょんちょんとあててあげます。
ちなみにお食い初めでは、食材を赤ちゃんに食べさせる「食べさせ役」がいます。
長寿にあやかるという伝統から、親族の中の最年長者が赤ちゃんの口に食べ物を運ぶという習慣があります。これは「五十日(いのか)の祝い」の頃から変わらないんですね。でも今は絶対にそうしなくてはいけないという決まりはありませんから、みんなで交代でやってみるといいですね。
ちなみに食器も決まりごとがあって、正式には漆器で高足の御膳を使用します。古い慣わしでは、男の子は内外ともに朱色の御膳、女の子は外が黒色、内が朱色の御膳なんですね。現在では、儀式のあとでも使用することが可能なベビー食器などを活用することがおおいですね。お食い初めでは、初めて赤ちゃんがお箸を使って食事をするため、お祝いの意味をこめて「祝い箸」を用意します。主に柳の木でつくられた、「両口箸」「俵箸」のことをいいます。
子どもの健やかな成長を願う気持ちは、今も昔も変わらないですね。
我が家も一昨年お食い初めの儀式を行いました。うちの息子はその時腹ペコで、早くミルクをよこせと大泣きでした(笑)。おかげさまでスクスクと元気に育っております。
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