リサイクルだけで本当にいいですか?
本当にリサイクルだけでいいのだろうか?
最近は、メディアやSNSでプラスチックの問題を見ない日はないと言ってもいい。大手コーヒーチェーンがプラスチックストローの使用を全面禁止にするとか、2050年には海洋生物よりも海に浮遊するプラスチックの数の方が多くなるという話や、私たちは1週間にクレジットカード1枚分のプラスチックを知らずに食べてしまっているなどという、恐ろしい内容も聞かれる。
世界ではプラスチックの使用について、政策により厳しく規制している国も出てきている。アフリカのケニアでは、私たちが何気なくスーパーやコンビニでもらっているあのビニール袋を持っているだけで、罰金もしくは禁錮刑になるという。
対して日本はどうだろうか?マイボトルやエコバック、マイ箸などを持参する人や、ゴミの分別を細かくしてリサイクルの意識を高める取り組みが増えているが、まだまだ脱プラスチックに関しては世界と比べるとかなり遅れているのが現状だろう。リサイクルで言えば、どんなに分別を促進してなるべくリサイクルできるように努めていても、日本のリサイクル率は20%ほどなのである。残りの80%焼却されている。日本人一人当たりが出すごみの量は、平均して1日約1kgとも言われている。全国民が1日平均1kgのごみを出すとして、その80%がリサイクルされず焼却処分されているとしたら、実に恐ろしい数字だ。ごみを出すのは何も日本人だけではない。数値の違いはあれど、世界中でごみが大量に出されて焼却されている。これまで世界中で出されてきたプラスチックのうち、なんと1%しかリサイクルされていないといった結果も出ているのだ。
そこで、リサイクルやリユースの前に、そもそもごみを出さない「ゼロ・ウェイスト」の活動が盛り上がっている。
そもそもごみを出さないためには
ゼロ・ウェイストとは、ごみゼロ(出てきた廃棄物をどう処理するか)ではなく、そもそもごみを出さないという考え方だ。「焼却・埋め立て・何でもリサイクル」がもたらすのは、資源の無駄遣いと有害物質による健康被害と水質汚染など環境への悪影響だった。ゼロ・ウェイストは、そんな社会の仕組み自体を変えていこうとするものだ。
経済の成長が右肩上がりになると、廃棄物の量も右肩上がりになった。それを処理するための手段として、主に焼却と埋め立てが採用され、日本人はごみを燃やすことが当然のこととなった。しかしその処理を続けていくことは、後世に大きなツケを残すことになる。焼却や埋め立ては資源の無駄遣いを助長し、健康被害や環境破壊を起こす危険性が大いにある。そこで、自治体レベルでごみゼロ(ごみを出さない)の仕組みづくりに取り組んむようになった。これが「ゼロ・ウェイスト宣言」だ。ゼロ・ウェイスト宣言は世界の各都市で行われているが、日本国内では、徳島県上勝町、熊本県水俣市、福岡県大木町、奈良県斑鳩町の4つの自治体だけである。いずれも西日本に分布しているが、現在北海道をはじめとした東日本の各自治体でもゼロ・ウェイスト宣言の動きが出てきている。
先日、徳島県上勝町でごみゼロの先進的な活動に取り組んでいる、ゼロ・ウェイスト・アカデミー代表の坂野晶さんが登壇するイベントに参加させて頂いた。上勝町では、自治体が主導し、ごみステーションを設立したり、より細かな分別を促進、リユースのためのショップを作ったりと、ごみゼロに対する様々な施策が実践されている。
根本的な改革として、住民のごみ在り方に関する意識を変えたのは大きいだろう。ごみを「燃えるか燃えないか」で区分するのでなく、「リサイクルできるかできないか」で考えるのだ。
そして、いったい何がリサイクルできる資源ではなく「ごみ」となるかを住民自身が考え、生産者や企業への提案、消費者の購買意識の変化へとつなげている。
とかくこういった課題に対して何か先進的な取り組みがなされると、小規模な自治体や、人口の少ない国だからできるという声が上がるが、果たしてそうだろうか?消費者として購買するのは、自治体や国の規模の大小は無関係だ。もちろん、販売する側、生産する側の意識改革も大事になってくるが、そこを変えるのも私たち一消費者の行動だと思う。美しい海に囲まれた日本。30年後、海面にごみが浮遊する海を子どもたちに見せたいだろうか?そろそろ本気で「そもそもごみが出ないようにする」生活を考えていってもいいのかもしれない。
『ゼロ・ウェイスト入門 科学で考えるごみゼロの未来』
10年前からこのゼロ・ウェイストに取り組み、東京都町田市でごみゼロ市民会議を立ち上げ、市民とともにごみを出さない仕組みづくりや生ごみを田んぼや畑で再利用するなど、様々なことを実践してきた人物がいる。それが『科学で考えるごみゼロの未来』の著者である、広瀬立成氏だ。広瀬氏は東京工業大学大学院博士課程を修了後、東京大学原子核研究所、東京都立大学理学研究科教授、早稲田大学理工学総合研究センター教授など、物理学者として活躍された。そんな広瀬氏が、科学の視点から持続可能性を唱え、科学の視点から考えたごみゼロの未来をまとめたのが本書だ。広瀬氏は、現在も日本各地で講演活動を行い、自治体のゼロ・ウェイスト宣言を支援している。
「持続可能な社会をつくるために、国の取り組みも大事だが、市民レベルでできることをから始めていき、大きなうねりを生み出していくことが重要だ」と広瀬氏は語る。本書をお読み頂き、ぜひ日々の暮らしの中でごみを減らす参考にしてほしい。
『ゼロ・ウェイスト入門 科学で考えるごみゼロの未来』(広瀬立成 著)
https://www.amazon.co.jp/dp/B07H84MYM3/
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