後世に遺すためのデジタルアーカイブ
東京の都営地下鉄大江戸線若松河田駅を降りて東新宿方面へしばらく歩いたところに、一般社団法人発明学会の建物がある。発明学会は、発明を奨励し、科学技術の振興と産業の発展に寄与することを目的として、一人一人の創造性を大切にし、知的財産として社会に活用できるように個人、中小企業を支援・応援する一般社団法人だ。発明したものの特許などの権利化や事業化の進め方を伝えたり、有用な商品を社会に提案する活動を行っている。また、企業の新製品開発や新しいビジネスを進めるため、知的財産権の活用の仕方などアドバイスを行う。
もう10年近く前の話になるが、わが社が会社を設立し事業をスタートする際に、ビジネスモデル特許の相談に来た記憶があった。動画を用いたサービスだったのだが、あの頃はもの凄く斬新なサービスだと自負していた。しかしながら、数年で一気にアプリ化が進み、YouTubeをはじめとした動画配信サービスが次々と生まれ、目新しさはなくなっていった。
昨今の先進技術の進歩は、まさに日進月歩。昨日の新サービスは、今日にはすでに過去のものになるほど進化スピードが早い。忙しく働く皆さんを眺めながら、発明学会に持ち込まれる案件もさぞ大量なのだろうと思案した。
発明学会とは関係ないが、この建物の4階にとびきりの技術を持った会社がある。様々な装置と人の手、目を駆使し、あらゆるものをスキャンして電子化する株式会社誠勝。スキャンして電子化というと、皆さんは何を思い浮かべるだろう?おそらく本の自炊を想像する方も多いだろう。ADF(auto document feeder)という自動原稿送り装置を使い、大量の資料や原稿などを電子データにしたり、前述のように本を1ページずつスキャンしてPDFで読めるようしたりと、スキャンにも色々ある。そんな中でこの株式会社誠勝は何がとびきりなのか?
何を電子化するかでスキャンの仕方も変わる
その一つがこの会社が目指すこと。誠勝のスキャンサービスは「デジタルアーカイブ」をメインにしている。デジタルアーカイブとは、博物館、美術館、公文書館や図書館の収蔵品を始め、有形・無形の文化資源などを電子化して記録保存することを言う。もちろん、一般的な書類や書籍の電子化も行うが、彼らの凄さはこのデジタルアーカイブにある。大型のスキャン装置のほかに、社員個々のデスクにはPCとリンクしたフラットベッドタイプのスキャン装置が置かれ、電子化されたデータの文字の校正、陰影の調整などを目視で行い、元の素材に合わせた最高のデジタルデータを生み出しているのだ。
今や市販のコンシューマー向けインクジェットプリンターにもスキャン機能がついている。紙のものをスキャンするというと、そのレベルを想像する人も多い。だから比較的安く出来ると思う人もいるだろう。ただ、スキャンについてもレベルがあるのだ。絵画や古文書、希少図書などは、当然原本を傷つけることは出来ない。背を裁断するなどはもっての外だ。そんな貴重な作品を傷つけることなく丁寧に、電子化して蘇らせる。電子化された作品は、その後の経年劣化を恐れる必要なく、後世に受け継がれて行く。もちろん、原本や原画は重要だ。何でもデジタルで作ればいいとは思わない。しかし僕たちが、貴重で大切にしたいと思うものは、自分の子どもや孫の世代にも見て欲しいし、感じて欲しい。だから遺していきたい。誠勝のデジタルアーカイブチームの皆さんも、そんな想いで仕事をしていると感じた。
僕たちは今、学術書や専門書、アート作品や絵本などを中心に電子出版と書籍の電子化を推進している。なぜ書籍の電子化を進めるのか?その答えはまさに誠勝のデジタルアーカイブ事業と同じ想いである。国の重要文化財とまではいかないが、これまで出版された既刊本はその著者にとって貴重な宝物であり、後世の読者にとっての財産でもある。著者の皆さんは、何かを誰かに伝えたくて、残したくて本を書いたのではないだろうか?絶版になり流通されなくなれば、その想いはそこで途絶えてしまう。その想いを電子化することで遺していきたい、僕たちはそう思っている。さらに電子書籍化し、多言語化することで、その想いは世界に広がっていくのだ。そのお手伝いもする。今後は株式会社誠勝とも協力しながら、様々なデジタルアーカイブに携わっていく。
「後世に遺したい何か」をお持ちの方、それがスキャン出来るようなものであれば、是非一声かけて頂きたい。
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