日本の宝を障がい者アートともに世界へ
4月と言えば入学式やお花見で、美しい桜が満開のイメージですが、今年は晩冬がずっと続いているような寒さ。
今日もしっかり着込んで暖房全開です。
新しいことが始まる4月、私たちの昔話絵本も新しい取り組みが今日スタートしました。
熊本市にある三井ガーデンホテル熊本で『パラアートで描く日本昔ばなしの世界』原画展がスタートしたのです。
約4ヶ月の準備期間を経て、昔話絵本アーティストたちの作品がホテルのロビーに堂々と展示されました。
火の国熊本らしく美しい赤色の経師をバックに、昔話絵本から飛び出したキャラクターたちが、スポットライトに照らされて生き生きとした姿を見せてくれています。
2021年、障がい者アーティストともに「日本の昔話や民話を世界へ発信していこう」とスタートしたプロジェクトは、2度のクラウドファンディングで多くの応援者・支援者の方々の力をお借りして、まもなく音声付きの10巻セットが世に出ていきます。
当時アーティストの皆さんは、
「絵本の絵が描けるなんて最高!」
「いつか絵本作家になりたい!」
「昔話の絵を描きたいと思っていた」
と言ってとても喜んでくれました。
そして、いつか必ず原画展を開催しようと決めていたのです。それが3年の月日を経て実現しました。
この原画展には14名のアーティストの作品が展示されています。
その中には東京のSさんが描いた「いなばのしろうさぎ」もあります。
Sさんは失語症で直接会話でのコミュニケーショは出来ません。
以前アーティストインタビューで、Sさんとお会いする機会がありました。
会話をサポートされる方と、就労支援施設の施設長のお力を借りて、意思の疎通をさせて頂きました。
Sさんは20代の頃、看護師としてバリバリ働く中で突然起こった脳梗塞。
それによりSさんは言葉を失いました。
絶望と不安に襲われる中で、Sさんを支えたのは旦那さんの献身的なサポートと、絵を描くこと。
もともと絵は得意だと思っていなかった。
でも言葉を失ったSさんは、絵で思いを伝えなくてはいけなくなりました。
誰かに何かを伝えようと思っても言葉が出ない、誰かが何かを伝えてくれていても、言葉がわからない。話せないのではない、聞けないのではない、言葉というツールが存在しなくなってしまった。
赤い鉛筆と言われても、赤が何なのかわからない。そんな世界を僕は生きたことがないので、理解することがとても難しかった。
相手が絵で伝えてくれることで理解が出来る。
自分が絵で表現することで伝えることが出来る。
絵を描くことはSさんにとって、生きるための手段になったのです。
買い物や交通機関の利用など、様々な場面でご自身が描いた絵を使ってコミュニケーションを図り、なんとか日常生活を送れるようになりました。
そうして描いてきた絵が、たくさんの人の目に留まるようになり、現在は自治体で失語症に関する啓蒙活動のためにも活用されています。
またSさんは大のネコ好きで、ずっとずっと描き続けてきたネコの絵がたくさんのファンを呼び、カレンダーやノベルティーなって、多くの人たちに癒しと安らぎを与えています。
今回Sさんが描いてくれたのは、残念ながらネコが登場する昔話ではありませんが、うさぎをはじめとした、愛くるしいキャラクターたちには、「この絵がたくさんの人の癒しになってほしい」というSさんの温かい想いが込められています。
原画展「パラアートで描く日本昔ばなしの世界」は、熊本にある三井ガーデンホテル熊本で、2024年4月6日から29日まで開催しています。
原画展の詳細