謙虚さと利他の気持ちを忘れない

公開日: : 最終更新日:2023/06/17 昔話

ちょっと体を壊してから減量を考えるようになり、最近豆腐をよく食べています。
夏は冷奴が美味しいですね。これからの季節は、湯豆腐や肉豆腐など、あたたかい豆腐料理も美味しいですね。

日本人にはとても馴染み深い食材の豆腐。
今日は豆腐にまつわる昔話「とうふ地蔵」をご紹介します。

とうふ地蔵あらすじ

昔、江戸の小石川の喜運寺の近くに豆腐屋がありました。
この豆腐屋は大変繁盛していましたが、ある時豆腐屋のだんなはもっと金もうけをしようと考えるようになりました。

奥さんに内緒で悪い豆を使ったり、豆腐を少し小さめに切って売ったりしていました。
それでもお客はそれに気づかず、店は相変わらず繁盛し、豆腐屋はさらにもうかっていきました。

ある日、だんなが出掛けている時、そろそろ店も閉まる夕刻に、一人の見知らぬ小坊主さんが豆腐を一丁買いに来ました。
豆腐屋の息子が応対しますが、二分金(1/2両)という大金を渡してどこへともなく消えて行ってしまいました。

その夜、だんながその日の売り上げを勘定していると、1枚の木の葉が紛れていました。
息子から不思議な小坊主の話を聞いていただんなは、小坊主の正体はキツネに違いないと思いました。

次の日も夕方になると、あの小坊主がやって来ました。
そして、また豆腐を一丁買って、二分金を払っていきました。

それを見て、だんなは豆腐包丁を手にして、小坊主の後を追いかけます。
喜運寺の前で小坊主に追いついただんなは、豆腐包丁で小坊主を斬りつけました。
しかし小坊主は消え、豆腐包丁は刃こぼれしてしまいました。

だんなは粉々になって落ちている豆腐の後を追って、小坊主を探しました。
それは墓地へと続いていて、奥の古い地蔵堂の所で途絶えていました。

だんなが地蔵堂の中に入ってみると、肩に刃こぼれした自分の豆腐包丁がささっているお地蔵様がありました。
それを見てだんなは、お地蔵さんが欲を張った戒めてくれたんだと悟り、お地蔵さんに心から謝りました。

その後豆腐屋の一家は、地蔵堂を建て直して、悪い豆を使ったり、豆腐を小さく切って売るようなことはしなくなりました。
すると、豆腐屋は以前にも増して繁盛していきました。

このお地蔵さんは「とうふ地蔵」と呼ばれるようになり、お地蔵さんに豆腐をお供えすると、どんな願いでも聞いてくれると、江戸中の評判になったそうです。

とうふ地蔵が教えてくれること

誰しも欲があるもので、うまくいけばもっとうまくいかせたい、お金が儲かればもっと儲けたいと思うものですよね。儲けることは悪くないですが、人を欺いたり、陥れたりして儲けるのは良くないこと。信じる者と書いて「儲」ですから、誰かに喜ばれることをして、役に立って、信用されえてこそお金はどんどん儲かるものなんですよね。

お地蔵さんが体を張って教えてくれたのは、とてもありがたいこと。そして大事なのは、それに豆腐屋のだんなさんが気づいたということ。欲に目が眩み、人の意見や行動に目がいかなくなることだってあります。でも、気づけたからこそ、豆腐屋さんはその後繁盛を続けることができました。

常に謙虚さと利他の気持ちを忘れないようにしたいですね。

豆腐の歴史

ここで、物語に出てきた豆腐について見てみたいと思います。
いまやどこの家庭でも冷蔵庫にストックがありそうな豆腐。豆腐はいつ頃から食べられるようになったのでしょうか。

豆腐が生まれたのは紀元前2世紀ごろの中国といわれています。16世紀の中国の書『本草綱目』には「豆腐は、漢の淮南王劉安に始まる」という記述があるそうです。それが根拠となっているんですね。初代皇帝の孫である劉安(りゅうあん)が部下に作らせたのが、豆腐の始まりとされています。中国語では「腐」は「液状のものが寄り集まって固形状になった、柔らかいもの」という意味で使われていることから、「豆腐」という名前が付けられたのだとか。決して豆を腐らせて作るものではないのです。

では、中国をルーツとする豆腐はいつ頃から日本で食べられるようになったのでしょう?

時は奈良時代、遣唐使が中国と日本の間を往復するようになります。この時に中国に渡った遣唐使の僧侶等により、日本に仏教が伝えられるのですが、それとともに寺院で使う食材のひとつとして豆腐が持ち込まれたのではないかという説があります。ただこれには明確な記録はありません。

豆腐が記録として登場するのは1183年、奈良にある春日大社の神主の日記に、お供物として「春近唐符一種」との記録があります。このことから、日本で豆腐が食されるようになったのは奈良時代からとされています。

精進料理として食されていた豆腐

鎌倉時代に入ると、禅宗が中国から伝えられました。禅宗では、修行の一環として肉や魚を避けて、植物性の食品だけで作った料理を摂ります。いわゆる精進料理ですね。そこで不足しがちなのがたんぱく質です。このたんぱく質を補うために、豆腐が重宝されるようになりました。

当初は寺院の僧侶等の間に普及し、その後精進料理として重宝されるようになり、貴族社会や武家社会に伝わった豆腐は、室町時代になって全国的に浸透していきます。奈良から製造が開始された後、京都へと伝わり、次第に全国へと広がっていきました。

現在乾燥した状態で袋詰めされ売っている高野豆腐は、鎌倉時代に偶然生まれた食料といわれています。寒さで凍ってしまった豆腐を溶かして食べてみたら食感が良く、こちらも精進料理として広まっていきました。その後、室町時代から安土桃山時代になると、豆腐を吊るして自然乾燥させて、保存食・兵糧食として確保されるようになります。

庶民の味として広がった豆腐

江戸時代になると、侶や武士の食べ物であった豆腐は、本格的に庶民の食べ物として取り入れられるようになります。
1782年に刊行された100種類の豆腐料理を紹介した本「豆腐百珍」が人気を呼びブームとなります。その翌年には「豆腐百珍続編」、そして翌々年には「豆腐百珍余禄」が出版されました。この3冊で紹介されている料理の種類を合計すると約240種類だそうです。この頃豆腐は大人気だったんですね。

一般にも普及していった豆腐ですが、まだ当初は高価なもので、当時の農村では、祭りやお盆、お正月、あるいは冠婚葬祭などの特別の日である「ハレの日」だけ豆腐料理が出されていました。普段の日は、みそ汁や漬物、金山時みそといったものを食しているのですが、ハレの日になると豆腐のほかに油揚げやこんにゃく、がんもどき、しいたけ、ごぼうなどが食卓にのぼったのです。また、米や酒もハレの日ならではものでした。

徳川家康と、その子の秀忠の時代には村々ではうどんやそばとともに、豆腐の製造も行ってはならず、農民がそれらを食べることも許されない禁令が出されていたんですね。三代将軍・家光の時代に出された「慶安御触書」には、豆腐は贅沢品として、農民に製造することを禁じていたほどです。

今や数多くの種類が販売され、安価で購入できる豆腐ですが、江戸時代はなかなか入手できない食材だったんですね。中国から伝わり、日本で人気を博した豆腐は、いま世界中で注目されるヘルシー食材として注目されています。
今日も感謝しながら美味しい豆腐をいただきましょう!

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