地位と肩書きが上がった時こそ御用心『無用の位』
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昔話
分不相応な地位や肩書き、必要以上のお金を手にして戸惑った経験はありますか?
そんな時、人はついつい態度や気持ちが大きくなりがちです。そして、それが原因で人間関係が壊れてしまうといったことも。
公卿様から「位」をもらったことで、故郷の人たちとの関係を壊してしまいそうになった、伊助の話が大切なことを教えてくれますよ。
『無用の位』のあらすじ
むかしある山国の村に、伊助(いすけ)という正直で働き者の男がいました。
身寄りのない伊助は、朝から晩まで村人の手伝いをして暮らしていました。
ある年のことです。
伊助は都へ奉公に行く事になりました。
伊助が奉公したのは、とても位の高い公卿(くぎょう)様の屋敷でした。
伊助は、まき割り、水くみ、馬小屋の掃除と、一日中休みなく働き続けました。
そして長い長い年月がたち、歳をとった伊助は故郷が恋しくなりました。
「どうか、おいとまを下さりませ。」
「どうした? 勤めが辛くなったか?」
「いいえ、故郷に帰って、懐かしい者たちと共に暮らしとうございます。」
「そうか。」
それを聞いて公卿様は、伊助がよく働いた礼に位を授けて、故郷に錦を飾らせてやろうと思いました。
「これ伊助、近うよれ。」
公卿様は伊助の頭に冠を乗せてこう言いました、
「伊助、位を頂いたからには、いつも大切に身にまとうのだぞ。」
「は、はい」
冠をつけた伊助は、何だか自分が偉くなった様な気がしました。
何十年ぶりに故郷に帰ってきた伊助を見て、村人はみんな驚き喜びました。
「伊助さん、立派になったもんじゃ。」
「ほんに出世して、伊助さんは村の誇りじゃ。」
口々に褒められた伊助は、つんとすまして言いました。
「なに、それほどもないわい」
それから伊助は広い土地を手に入れて、大きな家を建て始めました。
そんな伊助に、なじみの友だちが声をかけます。
「伊助、畑にゃ、何を植える?」
「これ!口の聞き方が悪いぞ!」
「・・・えっ?」
伊助の偉そうな態度に、なじみの友だちはびっくりしました。
村人は初めのうちは大歓迎で、色々と伊助の世話をしましたが、やがて誰も伊助に近づこうとはしなくなりました。
ある日、伊助は村人が立ち話をしているのを聞いてしまいました。
「伊助さんは、何であんなに威張っているんじゃ?」
「位なんか授かると、ああも人間が変わるものかのう。あれではまるで、化け物じゃ」
それを聞いて伊助は、ハッとしました。
「そ、そうか。この冠の為に、オラは・・・」
伊助はすぐに、都へと旅立ちました。そして公卿様に位を返したいとお願いしました。
「何? 位を返したいとな?」
「はい公卿様、わたしは故郷で、みんなと仲良く暮らしたいと思っておりました。
ところが位を授かったばかりに、一人ぼっちで寂しく暮らす事になりました。
わたしの様な者には、この位は無用の長物です。ですからこれは、お返しします。」
位を返した伊助は、百姓らしい身なりで村に帰って来ました。
それを見た村人たちは、また驚いて、
「どうしたんじゃ。そのなりは?」
と聞きました。
「ああ、冠も着物も、位と一緒にきれいに返してきたわい」
伊助はそう言うと、すぐに畑に出て働き始めました。
それから伊助は村のみんなと仕事に励み、仲良く幸せに暮らしたという事です。
『無用の位』が教えてくれること
人はとかく位・地位・肩書きにこだわってしまうものです。
私はサラリーマン時代、係長や課長のほかに、係長代理や課長代理などいろいろな肩書きがありました。
責任の所在を表すための肩書きであったと思いますが、係長代理になった途端、急に敬語で話されたり、急に責任を押し付けてこられたり(笑)といったことがありました。
その昔、階級制度が色濃く残っていた時代には、伊助のもらった「位」はとても重く、人を変えてしまうほどの影響力があったのでしょうね。地位や肩書きを持つことで、自分は人と違うと勘違いしてしまうことは、人なら誰でもあることだと思います。地位や肩書きのほかにも、お金を持つことで人が変わるというケースもありますね。
だからこそ、高い位をもらうようなことがあったり、大金を手にするようなことがあった時こそ、謙虚に生きたいものですね。
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