朝お茶を飲むゆとりの時間を「朝茶は難のがれ」

公開日: : 昔話

朝茶は七里帰っても飲めと言いますね。
朝のお茶は災難よけになるので、飲むのを忘れて旅に出てしまったら、たとえ七里の道を帰ってでも必ず飲みなさいという意味です。昔から朝茶は災いから逃れ、縁起のよいものとされてきました。

昔は縁起が良いものとして親しまれてきた朝茶ですが、現在では緑茶の効能が科学的にも認められ、朝茶にもその効能が生かされています。

例えば、緑茶に含まれるカフェインの覚醒作用は、眠気を覚まし頭もスッキリさせてくれます。近年注目されている緑茶のカテキンは、抗酸化作用や抗ウイルス作用、免疫力アップ、血糖値上昇の抑制、口臭予防などの効果があります。

そんな縁起が良く、体にもいい朝茶にまつわる民話もあるんですよ。

「朝茶は難のがれ」あらすじ

むかし、むかし、下野(しもつけ)の国(今の栃木県)のある村に、太郎兵衛(たろべえ)というお百姓がおりました。
ある時、太郎兵衛は、なにもしないのに、代官所の役人につかまってしまいました。

「何でも、一揆をおこそうとした罪で、はりつけの刑にされるらしい。」
「なーんにもしてねぇのに、太郎兵衛をはりつけにするとは、ひどすぎるぞー」

と言って、村の衆たちは代官所へどっと押しかけました。
しかし、代官所では、門も開けてくれません。

村のみんなは、何日も何日も門の前で、「どうか、太郎兵衛の命を助けてやってくだされー!」 と、お願いをしましたが、門の中からは何の答えも返ってきませんでした。

とうとう、太郎兵衛がはりつけの刑を受ける日の朝となりました。
村の衆たちが、「もはやこれまで」と思っていると、突然代官所の中から「開門(かいもん)!」という、大きな声が聞こえて来ました。大きな門がギギーっと開くと、白いハチマキにタスキがけの役人が馬に乗ってあらわれました。

その役人は、門の前にいる村の衆に、「太郎兵衛は、無実とわかった。これから処刑を止めさせに行く。」と言って、馬にひとムチ当て「それっ!」と処刑場へ向かって馬を走らせました。
門の前にいた村の衆は口々に、「よかった」「よかった」と小踊りしながら、馬の後を追いかけました。

ちょうどその頃、太郎兵衛は捕らえられている場所から、処刑場へ向かおうとしているところでした。
見張りの役人が、太郎兵衛をかわいそうに思ったのか、「朝の茶でも、一杯飲まんか?」と言いました。
しかし、太郎兵衛は、「いや、おれはじきに殺されるんだから、茶なんかいらん。早く連れていってくれ」と言って断りました。

太郎兵衛は処刑場に引き出されて行きます。
そこへ、早馬に乗った役人が駆けつけました。
やがて、処刑場が見えたとき、「そのはりつけ、やめーい!はりつけ、やめーい!」と大声で叫びました。

ところが、処刑場にいた役人は、その声を「つけー、つけー」と聞き間違えてしまい、慌てて「それーっ、はじめー」と合図をしてしまいました。そして、太郎兵衛は、槍で突かれて殺されてしまいました。

処刑場にいた人々は、早馬で駆け込んで来た役人から、太郎兵衛が無実の罪であったことを聞かされました。
見張りの役人は、「ほんのちょっとの差で間に合わなかった。朝、わしがすすめたお茶さえ飲んでおれば、死なずに済んだものを、、、」と、悔みました。

こんなことがあってから、「朝のお茶はその日の難を逃れる」と言って、人にすすめられたら、必ず飲むもんだと伝えられています。

 

 

日本のお茶のルーツ

日本で永きに渡り親しまれている朝茶の習慣ですが、そもそもお茶にはどういうルーツがあるのでしょう?
今回は特に身近な煎茶のルーツを見てみたいと思います。

お茶は中国で、古くからさまざまな飲み方で楽しまれ、歴史とともに変化しながら、一般市民へと普及していきました。中国の歴史の中で、お茶が登場するのは中国最古の薬物書である『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』となっています。神農は、古代中国の神とされ、草木の薬効を調べるために自らの体を使い、何度も毒にあたっては薬草の力で甦ったといわれています。こうして自ら発見した薬の効能によって多くの民衆が救われ、神農は薬祖神として、祀られるようになりました。このことからお茶の発見は紀元前2700年ごろ、神農時代とされています。

では、日本ではいつ頃から飲まれるようになったのでしょうか?

日本でのお茶の歴史は、奈良〜平安時代初期に中国から持ち込まれたことから始まります。日本は当時先進国であった唐(中国)の文化や学問などを学ぶため遣唐使を派遣していました。この頃に最澄や空海などの留学僧が、唐からお茶の種子を持ち帰ったのが、日本のお茶の歴史の始まりとされています。日吉大社(滋賀県大津市)に伝わる、安土桃山時代にまとめられた言い伝え集『日吉社神道秘密記』には、最澄が805年(延暦24年)に唐より茶の種を持ち帰ったこと、そして比叡山の麓(現在の滋賀県大津市坂本地区)に植えて栽培したことが記録されています。

また、平安初期の『日本後記』には、「嵯峨天皇に大僧都(だいそうず)永忠(えいちゅう)が近江の梵釈寺(ぼんしゃくじ)において茶を煎じて奉った」と記述されています。唐で茶が薬として服用されていたように、当時の日本でも滋養強壮のために飲まれていました。当時のお茶は現在のものとはがちがい、茶葉を蒸してすりつぶし固形状にして乾燥させた団茶(だんちゃ)と呼ばれるもので、飲むときは火であぶってから粉にしてお湯の中に入れて煮るものだったんですね。このころのお茶は非常に貴重で、上流階級などの限られた人々だけが口にすることができました。まだまだ一般には広まらなかったんですね。そして遣唐使が廃止になったことで、日本に定着せずに一度お茶の文化は廃れてしまいました。

その後、鎌倉初期(1191年)に栄西(えいさい)禅師が宋から帰国する際、日本にお茶を持ち帰り、茶の効能や飲み方を解説した書物『喫茶養生記』を編纂しました。これが、日本で最初の本格的なお茶に関する書といわれています。『吾妻鏡(あずまかがみ)』には、栄西が深酒の癖のある将軍源実朝に本書を献上したとに記してあります。

この時代に活躍した華厳宗の僧の明恵(みょうえ)が、栄西から茶の種をもらい、京都の栂尾(とがのお)にある高山寺にお茶を植えて栽培を始めました。これが日本最古の茶園といわれていて、現在の「宇治茶」の起源になっています。鎌倉時代後期〜南北朝時代には、様々なお寺が茶園をつくるようになり、京都のほか伊賀・伊勢・駿河・武蔵の国にも広がっていきます。最初は禅寺を中心に広がったお茶が、次第に武士にも普及し始めるのもこの頃です。この頃に飲まれていたのは、茶葉を粉末状にして、お湯に溶かして飲む、碾茶(てんちゃ)や挽茶(ひきちゃ)と呼ばれるもので、現在の抹茶のようなものでした。

江戸時代になると、お茶は幕府の儀礼に用いられます。この頃から一般庶民の間にも嗜好品としてのお茶が広まってきています。当時庶民が飲んでいたお茶は、茶葉を煎じたもので、これが今でいう煎茶(せんちゃ)でした。1738年に宇治の農民であった永谷宗円(ながたに そうえん)が、新たな製茶法「青製煎茶製法」を編み出します。これにより、それまで茶色だった煎茶が、鮮やかな緑色を出すことができるようになりました。これが全国へ急速に広まり、日本における茶のスタンダードとなっていきます。とはいえ、江戸時代はまだまだお茶は贅沢品で、今のように日常的にお茶が飲まれるようになるのは、機械化により大量生産が可能になった大正から昭和前期の時代です。

今日は急須で入れたお茶をゆっくりと飲んでみてはいかがでしょう?その日一日の災いを遠ざけてくれるかもしれませんね。

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