成り上がっても親への恩を忘れない『力太郎』
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昔話
日本の昔話の形式の1つである「異常誕生譚」。
異常な姿で生まれた子どもや、異常な生まれ方をした子どもにまつわる物語で、桃太郎や瓜姫などありますが、その中でもなかなかの異常っぷりを発揮しているのが「力太郎」。
おじいさんと、おばあさんの体をこすって出た垢から、生まれたというから驚きです。生まれたというより、生み出された、作られたって言った方がいいでしょうかね。
力太郎は岩手県に伝わる昔話で、主人公が垢で出来ているので、『垢太郎』とも言われます。また、岩手県ではアカのことを『こんび』と言うので、『こんび太郎』という名前でも知られていますね。
力太郎も桃太郎同様に、旅の途中で家来ができて、みんなで化け物を退治するというお話なのですが、家来になる者たちもなかなかの特殊キャラクターなんですよね。では、あらすじを見ていきましょう!
力太郎のあらすじ
むかし、むかし、あるところに、ぐうたらなおじいさんとおばあさんが住んでいました。
二人は何日も風呂に入っていなかったので体中がアカだらけでした。
そこである日、おじいさんとおばあさんは自分たちのアカを集めて、人形を作ってみることにしました。
「まっ黒だけど、かわいいですね。」おばあさんが言いました。
おじいさんとおばあさんには、子どもがいませんでしたので、人形でできた子どもに「力太郎」と名付けました。
おばあさんが力太郎にごはんをやると、なんと人形が動き出し、ぱくりと食べてしまいました。
驚いたおじいさんとおばあさんでしたが、力太郎がどんどんごはんを欲しがるので、二人はたくさん食べさせました。
二人は、なまけ者だったのがうそのように、せっせと力太郎の世話を始めました。
食べれば食べるほど大きくなる力太郎でしたが、泣くこともわめくこともなく、ただ寝てばかりでした。
それでも力太郎は、大きくて立派な男に成長しました。
ある日、力太郎は力試しの武者修行に行くと言い出します。
そこで、おじいさんとおばあさんは、百貫目の鉄棒を作り力太郎に持たせて送り出しました。
力太郎が旅に出ると、途中で大きな御堂を担いだ、御堂っこ太郎に出会います。
「これでは道が通れん」と言って、力太郎が鉄棒で御堂を突くと、御堂ががらりと落ちてこわれてしまいました。
怒った御堂っ子太郎は、「日本一の力持ち、御堂っこ太郎をしらんのか!」と言って、力太郎の鉄棒をつかみました。
力太郎が、力任せに鉄棒を振り回すと、御堂っ子太郎は遠くの木まで吹き飛ばされてしまいました。
これに驚いた御堂っ子太郎は、力太郎の家来になりました。
しばらく歩いていくと、今度は大きな石を転がしている、石こ太郎に出会いました。
力太郎が、ころがってきた大石を鉄棒で受け止め弾き返すと、石が石こ太郎にぶつかりました。
石こ太郎が「おらのことを、日本一の力持ち、石こ太郎と知ってやったのか!」と怒りながら向かってきます。
力太郎は石こ太郎の首根っこを掴んでぽいとぶん投げてしまいました。
これに驚いた石こ太郎は、力太郎の家来になりました。
3人がしばらく歩いていくと、しんと静まりかえった町に着きました。
不思議と町には人の気配がありませんでした。
町の長者の家まで来ると、中から娘の泣き声が聞こえました。
力太郎が泣いている訳をたずねると、娘が「この町には毎月化け物が現れて生け贄の娘を食べてしまうのです。
今日は私がその生け贄になる日なのです」と言いました。
力太郎は「俺たちが化け物を退治してやる」と言って、夜中に化け物が現れるのをじっと待ちました。
夜になって、黒いけむりがあたりを包み込むと、その中から化け物が現れました。
まず御堂っこ太郎が化け物に飛びかかりましたが、いともかんたんに化け物に食べられてしまいました。
そして、石っこ太郎も後に続きましたが、同じように食べられてしまいました。
そこで力太郎が立ち上がり、「おれが相手だ!」と鉄棒を振りかざし向かっていきました。
しかし化け物は、力太郎の持っていた鉄棒をアメ細工のように曲げてしまいました。
それならばと、今度は化け物と組み合いますが、なかなか勝負がつきません。
はげしい取っ組み合いの末に、力太郎がついに化け物をぶん投げました。そして化け物は、二人の家来を吐き出しました。
化け物は、「参った、参った」と言って、逃げ帰って行きました。
こうして化け物を退治した3人は、それぞれ長者の3人娘と結婚して、この町に住むことにしました。
力太郎は、平和になった町に、おじいさんとおばあさんを呼んで、いつまでも一緒に、楽しく暮らしました。
力太郎が教えてくれること
村人に悪さをしているという鬼を退治するために、鬼ヶ島へ旅立った桃太郎と違い、力太郎は己の力を試すために旅に出ます。まさに腕試し。現代の漫画で言うと「オラ、もっと強ぇヤツと闘ってみてー」という、ドラゴンボールの孫悟空の感じですね。
旅の途中で御堂っ子太郎、石こ太郎は、それぞれ己の力が天下一だと思っています。しかし力太郎に敢えなく敗れることで、世の中上には上がいるということを知らされるわけです。敗れた後、逃げ帰ることなく、勝者の力を認めて家来になり、最終的には共通の敵にチームで挑んでいくというところが、なんとなくドラゴンボールをイメージさせます(最近の漫画は知らないもので、、、)。
化け物を退治して、長者さんの娘と結婚し、まさに自らの力で成り上がった力太郎。こんな時は、ついつい自信過剰となり、親への恩義を忘れてしまいがちです。しかし力太郎は、おじいさんとおばあさんを町に呼び寄せて一緒に暮らします。人間は、自分一人で育つなんてことはありませんからね、どんなに富を得て豊かになろうとも、親への恩、周りの人たちへの恩を忘れない、心の豊かさも持って生きたいものです。
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