春霞の時季を経て春本番へ「霞始靆」
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昔話
日中はだいぶあたたかくなりましたね。
2月もまもなく終わり、暦は3月に入ります。
七十二候の『霞始靆(かすみ はじめてたなびく)』も今日が最後です。
山々に春の趣を感じる
霞始靆とは、朝方や昼間、霧や靄(もや)が発生して、遠くの山や景色がほのかに現れては消える、春の趣を感じられる時季です。春になると、遠くの景色が白くぼんやりとかすみ、幻想的に見えることがありますよね。
「霞」とは、大気中に細かな水滴や湿った微粒子が増えて、遠くがぼんやりとかすんで見える現象で、春に「霧」や「靄」が出て視界が悪くなる状態を表しています。「靆(たなびく)」とは、霞や雲が薄く長く層をなして、横に引くような形で空に漂う様子を表しています。「棚引く」とも「棚曳く」とも書かれます。
朝一番の「霞」の情景は、清少納言の『枕草子』の冒頭「春はあけぼの」の一節が有名ですね。
『春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。』
「春は明け方が良い。朝日が昇るにつれて、だんだんとあたりが白んで、山のすぐ上の辺りの空がほんのりと明るくなって、紫がかっている雲が細くたなびいている様子」
一方で、夜の「霞」は「朧(おぼろ)」と呼ばれ、春の夜に浮かぶ霞んだ月を「朧月(おぼろづき)」と言います。
童謡の『朧月夜』が有名ですね。
霞と霧と靄の違いは?
ところで、霧と靄と霞の違いって何でしょう?みんな同じようですが、実は違いがあるんですね。
【霧】・・・微小な浮遊水滴により、視程が1km未満の状態
【靄】・・・微小な浮遊水滴や湿った微粒子により視程が1km以上、10km未満となっている状態
【霞】・・・空気中に浮かんでいる様々な細かい粒子のため、遠くがはっきり見えない現象。
また、霧や煙が薄い帯のように見える現象。
こんな違いです。なんとなく使っていましたが、それぞれに特性があるんですね。
霞始靆の時期は、冬のくっきりとした山の稜線とは違った、趣のある山野の風景が見られます。
普段改めては見ない山々を眺めてみるのもいいですね。
水面に映る月を飲み干すと、、、
今日は月が出てくる昔話を1つ。
『月ガ瀬』
むかし、飛騨の山あいを流れる小鳥川(ことりがわ)に沿って、
余部(あまりべ)という小さな山里がありました。
この村に九郎兵衛(くろべえ)という百姓夫婦が住んでいました。
この夫婦の間には信夫(しのぶ)という一人娘がいましたが、
信夫は娘の盛りをとうに過ぎても嫁にも行かず一人身でした。
信夫は色が黒く器量が悪かったため、
そんな娘を思い、九郎兵衛夫婦はいつも胸を痛めていました。
そんな信夫が25歳を迎えた夏の終わりのことです。
この日は年に一度の盆踊りの日。
信夫もお祭りに行くように両親に促され、仕方なく家を出ました。
不器量な自分のことを、村の人たちが陰口を言っている気がして、
どうしてもお祭りに行く気にはなれませんでした。
信夫の足は自然と氏神様とは反対の川辺の方へと向かい、
気がつくと信夫は小鳥川に架かる小さな橋の上に立って、
水面に映る満月を見つめていた。
月を見ているうちに、不器量なために嫁にも行けない自分の
切ない気持ちが胸のうちにこみ上げて来ました。
すると何を思ったのか、信夫は水面に映った月をすくうように手で水を汲み、
その水を飲み干してしまった。
すると、その次の年の氏神様の祭りが近づいた頃、
不思議なことに、信夫は丸々とした輝くばかりに美しい男の子を産み落としたのです。
そしてその子は都に出て、後の世まで名を知られる飛騨の匠(ひだのたくみ)になりました。
信夫が水面に映った月影を飲み干した小鳥川の淵は月ヶ瀬と呼ばれ、その後二度と月影を映すことはありませんでした。
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