タヌキも愛したうどんのお話「夜なきうどん」

公開日: : 最終更新日:2021/12/15 昔話

一段と冷え込みが厳しくなってきましたね。今日は関東地方でもちらほらと雪が舞ったとか。

寒さが厳しくなると、温かいものが食べたくなりますよね。お鍋、おでん、ラーメン、シチュー、体の芯から温まるものが恋しくなります。我が家はみんな麺好きで、この季節は温かいうどんが活躍します。私は蕎麦派なんですが、みんな圧倒的にうどん派。出汁を効かせた温かいうどんに、天かすやわかめ、豚しゃぶなどを乗せると、もりもり食べてくれます。

最近はうどん屋さんもチェーン店が増え、揚げたての天ぷらとコシのある本格的なうどんを手軽に食べられるようになりましたが、実はうどんって、結構昔から食されているんですよね。

うどんの歴史を見てみよう

うどんといえば小麦ですね。
小麦は人類最古の作物のひとつとされていて、紀元前8千年頃のメソポタミアで栽培されはじめした。当時の遺跡からは、麦を粉にするための石臼のような道具が麦の一種とともに発見されています。その後西アジアで栽培が始まった小麦が、シルクロードを渡って西へ伝わり、イタリアでパスタになりました。そして東へ伝わった小麦は中国を経て日本に渡ってきたんですね。

西アジアから伝わった小麦は中国で発展を遂げて、小麦粉に水を加えて練った「餅(ピン)」というものに変化します。
「餅(ピン)」には4種類あります。練った小麦粉を現在の饅頭や焼売のように蒸した「蒸餅(ツエピン)」、パンや煎餅のように焼いた「焼餅(サオピン)」、小麦粉に「みょうばん」などの添加物を加えて棒状にねじって油で揚げた「油餅(イウピン)」、スープの中に入れてゆでた「湯餅(タンピン)」です。

この中の「ゆでる」という調理法が現在の「麺」に発展していきました。中国で「麺(ミエン)」というのは、もともとは小麦粉のことを指します。日本でいうところの「麺」にあたるのは「麺条(ミエンテイアオ)」と呼ばれていました。

中国最古の麺と呼ばれるものに「索餅(さくべい)」があります。索餅は小麦粉と米粉を混ぜて塩水で練り、太い縄状にねじった太い麺のことを指します。清の時代に書かれた書物に「索餅は水引餅(すいいんべい)のことである」と書かれています。

「水引餅」は、紐状にした麺を水につけてから人差し指と親指ではさみ、薄く手延べしたものをいいます。これをスープに入れてゆでて食べるんですね。これがうどんの先祖といわれています。

小麦が日本に伝わるのは弥生時代。中国大陸からさまざまな文明と共に小麦も日本に伝来します。その後日本でも「索餅」が作られるようになりました。奈良時代には、小麦粉の大量生産のために大型の回転式臼を使用していたといわれ、東大寺境内の古井戸からは臼の破片が発見されており、たくさんの「索餅」が作れていたようです。平安時代には、長寿祈願の食べものとして宮中でも供応されていたといわれています。

日本でのうどん誕生

日本の歴史の中でうどんの誕生には諸説あります。
1つは、鎌倉時代の高僧で静岡茶の始祖と伝えられている聖一国師円爾が、1241年に宋より帰朝し製めん法などの文化や技術をもたらしたという説。円爾は宗国から仏書千余巻とともに茶の実を持ち帰り、生誕地である駿河国の地にそれを蒔いたと伝えられています。静岡がお茶で有名なのはここにルーツがあるんですね。また、うどんで有名な香川県では、弘法大師空海が唐の国からうどん作りに適した小麦と、製麺技術を伝えたという説もあります。

うどんが現在のようなかたちで食べられるようになったのは 室町時代といわれています。索餅が薄くのばし細く切ったものを「切り麦」と呼び、それが現代のうどんのルーツになりました。江戸時代に入り、様々な食文化が開花する中で、うどんも庶民の食べ物として親しまれるようになります。この頃に天ぷらうどん・鴨南蛮などの具をのせたうどんも登場しました。

もともと日本は東西どちらもうどんが中心だったものが、江戸時代になると東はそばが中心になります。これは関西が小麦の栽培に適した温暖な気候だったのに対し、関東は寒冷地に強いそばのほうが栽培しやすかったという理由があります。これが今でも東のそば、西のうどんと呼ばれるようになったんですね。

タヌキも愛したうどんのお話「夜なきうどん」

さて、長い歴史を持つうどんですから、昔話の中にももちろん登場します。
うどんが登場する昔話をご紹介します。

むかしむかし高知の山奥に、冬になるとうどんの屋台(夜泣きうどん)を引いてくる人の良いおじいさんがいました。
この屋台の常連に、かっちゃんという若者がおりました。

ある夜、この辺りでは見かけないとても美人な女将さん風の女の人が、屋台にうどんを食べにやってきました。
珍しい客が来たもんだと、店主のおじいさんとかっちゃんは不思議そうに眺めていました。

すると、次の夜もまた次の夜も、この辺りで見かけない客がやってきて、うどんを何杯もおかわりして帰って行きました。
こいつはありがたいと、喜んでいたおじいさんでしたが、翌日見慣れない客たちが払ったお金が、全て木の葉になっていました。

その話を聞いて、うどん屋のおじいさんをかわいそうに思ったかっちゃんは、ある夜、怪しい客の着物の裾に火を付けました。
すると、熱さに驚いた客は、慌てふためいて元のタヌキの姿に戻りました。

怒ったかっちゃんは、タヌキをさんざん痛めつけました。タヌキは瀕死の状態で山に逃げ帰っていきました。
それからは、客の払ったお金が木の葉になる事はなくなりました。

 

翌年、また夜泣うどんがやってくる季節になりました。
かっちゃんは「今年も夜泣きうどんが来たか」と思い、音の鳴る方へ歩いていきました。

しかし、その鈴の音は屋台の鈴ではありません。
変だと思ったかっちゃんが、あたりを見回すと、6匹の子ダヌキたちが鈴の音を真似て鳴いていました。

それは、以前かっちゃんが痛めつけたタヌキの子どもたちでした。
母ダヌキが毎晩、夜泣うどんに通っていたため、子ダヌキたちも鈴の音を覚えたようです。
死んでしまった母ダヌキを偲んで鳴いているる子ダヌキたちを見て、かっちゃんは後悔の涙を流しました。

というお話です。

タヌキだって、寒い季節は温かいうどんが食べたくなりますよね。
タヌキに化かされたのは悔しいですが、痛めつけるのは良くないですね。
かっちゃんには、子ダヌキたちへうどんをご馳走してあげてもらいたいものです。

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