返本率が向上し続く出版社倒産
止まらない出版社の倒産
今年の2月に、1973年(昭和48年)10月に設立され、バイク、自転車、釣り、写真、サーフィン、ゴルフ、旅などアウトドア系の趣味やライフスタイルをテーマにした雑誌・書籍などを出版していた株式会社枻出版社が、東京地裁へ民事再生法の適用を申請し、保全・監督命令を受けたという記事が出ました。
主な月刊誌では、ライフスタイルマガジン『Lightning』のほか、バイク総合誌『RIDERS CLUB』、アウトドア・登山誌『PEAKS』、また、季刊誌ではサーフィン情報誌『NALU』、湘南や世田谷などのエリアライフスタイル紹介誌『湘南スタイル』『世田谷ライフ』など、2020年3月期において、雑誌176点、ムック249点、書籍30点、フリーペーパー4点、合計459点を出版していました。私もムック本をたくさん読みました。同業他社にはない、幅広い分野の専門誌を扱っていて、各分野のマニアやコアなファンの要望も充足させる誌面でしたね。
雑誌・書籍事業のほかにも、広告事業や販促用パンフレット、カタログ、ウェブサイトなどの制作請負事業、さらには、自社の雑誌で提案するライフスタイルに合わせ、飲食店事業や住宅建築設計事業、ゴルフ事業、ガレージ事業などを幅広く展開していました。近年は出版不況のあおりを受けて、主力の出版事業の低迷に加え、その他事業の落ち込みもあり、3期連続赤字となるなど財務内容も悪化していたそうです。その後、新型コロナウイルスの影響で広告収入が減少したほか、出版計画に狂いが生じ自主再建を断念、法的手続きにより再建を目指すこととなりました。
もう1つの要因として、返本率の高さがあったようです。実は売り上げのピークを迎えた段階で転落の兆候は見え始めていて、出版点数が増えるに連れ返本率が上昇し、近年は業界平均を大きく超え、50%以上が返本されるようになった。平均して4割程度の返本があるという日本の出版業界ですが、返本率が50%となるとかなり厳しい状況ですね。この返本の仕組みは、今後も出版社を苦しめることになりそうです。
出版社が倒産した場合の作品の行方
出版社が倒産すれば、作品の多くは絶版となり、中古本としてしか市場で見ることは出来なくなります。人気の雑誌も廃刊になってしまう。それは出版界にとっても読者にとってもとても不幸なことです。そうならないためにも、今後さらに増える情報量と、新たな技術、目まぐるしく展開される状況に、いかにして出版業界が対応していくかを考えなければいけないと思います。
いままさに、出版社の事情で新しい出版企画が頓挫してしまったという相談を受けています。電子書籍を使ってこの出版を実現したいと。内容はこれからの僕たちの暮らし、地球環境にとってとても重要なことが書かれています。是非ともこの本を出版したいと思います。本は著者や作り手の想いが詰まった、読者への素晴らしい贈り物です。少しでも多くの本が、求めている読者の元に届くように。業界全体の変化と融合が必要な時が来ていますね。
出版社が倒産した場合、版権を一部引き継いで、別の出版社が販売を続けていくという作品もあるかと思いますが、殆どの作品は絶版になるのではないでしょうか。 そういった作品の中には、大量に売れるわけではなくても、読者に求められるものがたくさんあるはずです。そういった作品が絶版になり、読者が目にすることもできなくなってしまうというのは、あまりに勿体無いと思うのです。著者にとっては、自分の一部を切り取ったある意味分身のような作品が、完全に眠らされてしまうというのは、痛恨の極みではないでしょうか。そういった作品こそ、電子化で生まれ変わらせて、いつでも読者が手に取れるようにしておくべきだと、僕は思います。業界全体で本というコンテンツの今後を考えて行く時が来ていますね。
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