2年目を迎えた新時代 変わる出版業界
令和の二年目がスタートしました。
昨年発表された今年の漢字「令」が示すように、美しい調和が進む一年になるように期待したいですね。
年号も改まり、出版業界も新たな動きが出てきそうです。
とはいえ、数字上は出版不況が一段と進んでいるのが現状。
出版業界の調査研究機関である出版科学研究所によると、2019年の紙の出版物の推定販売金額は約1兆2400億円台となり、15年連続で前年実績を下回る見通しということです。紙の出版物の市場縮小が続く中で、トーハンなどの取次各社は異業種との連携や、収益力の改善に向けた取り組みを加速させています。
出版業界の新たな動き
トーハンでは、新たな取り組みとして書籍の要約版を作成・配信する情報工場書籍紹介サービス「SERENDIP(セレンディップ)」と提携し、セレンディップの情報をトーハンの取引先の書店で紹介していくとのこと。店頭に置いた販促物にセレンディップが要約した書籍を読めるQRコードを記載することなどを想定します。読者が書店に行った際に、書籍の要約を試読することで店頭の販売増につながるとみているようです。セレンディップの閲覧情報のデータを分析し、需要動向に合わせた効率的な書籍の配本につなげることも期待する。配本については、書店の規模や売り上げにより、売れ筋の本が届かなかったり、売りたくない本も配本されるといったこともあり、データ分析に基づいた配本は書店にも読者にもメリットがありそうですね。
出版業界においては、出版社が「再販売価格維持制度(再販制度)」に基づき、紙の書籍の小売価格を決めることができる一方で、売れ残った本は書店から出版社に返品できる「委託販売」が主流でした。しかしながら、出版販売が低迷する中で、4割にのぼる返品率が書店などの利益を圧迫している。前述の配本にも問題がありますね。
日販グループホールディングスは、この返品率の改善に向けた新しい取引制度を拡大しようとしています。一部出版社と連携して、事前に返品率の目標を設定し、目標を達成した場合に報奨金で還元するという新しい取引を始めています。これにより、返品率改善の効果があったということで、他の出版社にも導入を呼びかける方針とのこと。返品率の改善は良いことですが、いささか業界内に目を向けた施策で、まだまだ著者や読者目線になっていない気がします。
TSUTAYAでは、書店が出版社から書籍を直接購入し販売する「買い切り」を導入していますね。通常より良い条件で書籍を仕入れる代わりに、定められた枠を超えた返品が発生した場合は、ペナルティーを支払う仕組みで、順次対象書籍を増やす方針とのことです。取次との契約を結んでいない出版社や、小規模な出版社であっても、書店との直接取引が可能になれば、流通に乗せることが可能になります。それまで書店に著書を並べることができなかった著者にとっても、希望が見えてきますね。
プリントオンデマンドで在庫を持たない紙書籍
出版業界の制度が少しずつ変化を見せる中で、電子出版市場も徐々に拡大しています。未だ業界全体の約10%ほどの規模ではありますが、電子だけ出版だけでなくオンデマンド出版(プリントオンデマンド)が伸びつつあるのです。
プリントオンデマンドとは、注文があってから紙の出版物を1冊単位で印刷・製本し、購入者の元へ届けるサービスのこと。紙の書籍でありながら無駄な在庫を抱える事なく、半永久的に出版可能です。2012年頃からプリントオンデマンドを展開しているアマゾン社によると、現在売上げが拡大傾向にあるとのこと。2017年には、サービスを開始した2012年と比べて、21.7倍の売上げ規模となったとのこと。さらに2018年には、前年比51%増と、1.5倍もの成長となっています。書籍事業の中ではまだまだ規模は小さいですが、大きく成長している事業領域になっています。
出版業界には歴史があり、出版社、取次、書店の間で長きに渡って築かれてきた仕組みが、今日まで続いています。アマゾン社が参入し、書籍販売が劇的に変化を遂げた一方で、まだまだ変革できない日本の出版業界事情。新たな時代の2年目に、新風が巻き起こり業界が活性化することを期待したいですね。
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