地球の未来を変える1枚の紙
持続可能性を考える
SDGs、サーキュラーエコノミー、ブルーエコノミーなど、ビジネスにおいて「持続可能性」がキーワードになってきた。
SDGsは「持続可能な開発目標」のことで、2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標のこと。持続可能な世界を実現するための17のゴールと、169のターゲットから構成されている。SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサルなものであり、日本も積極的に取り組み始めた。
エコという言葉がトレンドになり、広く使われるようになった頃、なんでもかんでもエコという単語が付けられ、一過性のブームになってしまった感があった。それから似非エコ(?)のようなものは淘汰され、いまとなってはエコな暮らしがスタンダードになっている気もする。話題を集めるSDGsだが、同じようにありとあらゆるものがSDGsで括られ、果たしてこれは本来のSDGsなのか?というよな代物が出ないといいななんて思っている。
過日案内を頂き参加した「ワンプラネットペーパーフェス」。こちらはサステナブルな紙の生産から販売を行う企業と、消費者、そしてサステナブルなビジネスに興味のある人々が集うイベントだ。私は、このビジネスモデルを日本&ザンビアでスタートさせた株式会社One Planet Cafeを、2011年から追い続けている。5年目を迎えた今年のフェスでは、つくる側の責任と買う側の責任、それぞれにフォーカスし、新たな消費行動へシフトしていく未来を見せてくれた。
日本初フェアトレードの紙
バナナペーパーという紙がある。
バナナの香りはしないが、原料はバナナだ。バナナと言っても、あの黄色い皮や中身の果肉を使っているわけではない。バナナの木、厳密には茎の部分を使うのだ。バナナの茎には繊維質が豊富で、茎の水分を抜いて繊維を抽出し乾燥させる。乾燥した繊維を日本の越前和紙と合わせて、紙に仕上げたものがバナナペーパーだ。
バナナの茎は一度実がなるとそれで終わりで、一旦根元から伐採しないと次の実はならない。伐採すると約1年で成長し、また実をつける。その繰り返しだ。伐採された茎がどうなるかというと、ゴミとして放置される。何も使い道がなかったバナナの茎は、伐採後積み重ねられたままになる。
東アフリカの国ザンビア共和国にある、サウス・ルアングア国立公園付近の村で、バナナの茎が大量に積み重ねられたまま放置され、素晴らしい景観を汚していることに心を痛めた人物がいた。それが株式会社One Planet CafeのPeo Ekbergさんと、妻で代表のEkberg聡子さんだ。長年に渡り環境ジャーナリストとして活躍していたEkberg氏は、サファリツアーに行った際に出会ったこの状況を何とか出来ないものかと、現地のガイドの方と相談し、このゴミとなってしまっているバナナの茎から紙を作り出すことを考える。繊維が豊富な上、成長のスピードは木の約30倍。バナナの茎で紙を作ることができれば、ゴミを資源に変えることができる。
世界で消費される紙の量は、毎日100万トン以上。 その約90%が「木」を原料としている。日本人一人当たりの紙の使用量は約200kg/年。世界の経済発展に伴い紙の消費量が増加する一方、木の再生が追いつかず、世界では毎年日本の面積の約3分の1にあたる広さの森が失くなっているという。 バナナペーパーは、そういった世界が抱える課題を解決できるポテンシャルを持っている。
さらにこの紙づくりの仕事をしているのは、貧困層の女性・男性であり、メンバーの多くはこれまで長期的な仕事に就いたことがない。これまでは家族を支えるため、違法の森林伐採や密猟者になってしまうこともあった。そこでOne Planet Cafeが現地に工場を建設し、彼らを雇用し、フェアトレードの仕事として、2011年バナナペーパープロジェクトをスタートした。時を経て2016年には、紙業界では日本初となるフェアトレード認証 (WFTO 世界フェアトレード機関)を取得している。
さらに詳しい内容は、One Planet Cafeのウェブサイトをみてもらいたい。
http://oneplanetcafe.com/paper/
現在日本でフェアトレード認証の商品を買おうと思っても、近所のスーパーなどではほとんど手に入らないだろう。さらに同種の商品と比較してみると、価格も結構高い。そこには「公正な取引」「環境に正しい」というお墨付きがあるわけだが、果たして毎日の買い物でそういった商品を選択するだろうか?日本ではまだまだフェアトレードやサステナブル、エシカルに関する啓蒙があまりされていない。しかしながら、すでに中学校の教科書には「エシカル消費」という言葉が掲載されることが決定しており、高校の英語の教科書でワンプラネットペーパーが紹介されている。今回のフェスには、中学生や高校生、大学生の姿がたくさん見られた。これからの消費を担い、地球を守っていくのは彼らだ。私たち世代は、彼らに大いなる負の遺産を残すことのないよう、毎日の暮らしを考えてみる必要があるのではないだろうか。
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