宇賀神智×角張由紀恵 in 山元学校「AIと人の間」
ロボットの原点が生まれたチェコ
A.I.が人類を超えるのか?人工知能が発達し、人間の知性を超えることによって、人間の生活に大きな変化が起こるという概念「シンギュラリティ(技術的特異点)」。2045年に実現とも、永遠に来ないとも言われている。スタンリー・キューブリック監督が映画『2001年宇宙の旅』で描いたまさにその年、スティーブン・スピルバーグ監督、ハーレイ・ジョエル・オズメント主演の映画『A.I.』が上映された。この映画を見て、シンギュラリティという言葉も知らなかった僕は当時、「あぁ、人類はロボットによって支配されるんだなぁ」と漠然と思った。
いまやA.I.やロボットの映画やドラマは数多く放映されているが、このロボットという言葉が生まれるきっかけとなった戯曲が、1920年にチェコで作られた。『R.U.R』チェコ語で「Rossumovi univerzální roboti(ロッサム万能ロボット会社)」作家は日本でも有名なカレル・チャペック。
舞台はヨーロッパ旧世界を遠く離れた海の孤島。ここでは、攪拌槽で原料を混合して脳・内臓・骨といった各器官が、人工の原形質の培養で神経や血管が紡績機で作られ、それらを部品として組み上げてロボットが造られていた。生殖能力はなく、寿命は最長で約20年、不良品や寿命を迎えた物は粉砕装置で処分される。完成すると機能チェックがなされ、目的の労働を行う上で必要最低限なプログラムが入力される。知力は高いがプログラム以外の事は考えない。感情・味覚・痛覚はなく、死に対する恐怖もない。
ある日、R.U.R.のドミン社長を、「人権連盟」の代表で、R.U.R.社会長の娘ヘレナが訪問する。ロボット製造の起源、ロボットの性質、ロボットによる人類社会変革の理想を語るドミンと、それぞれの担当部門の観点からそれを説明・擁護する役員達を相手に、ヘレナは労働者として酷使されているロボット達が人道的扱いを受けられるよう申し入れるが、、、。最後は人間の労働を肩代わりしていたロボットたちが団結して反乱を起こし、人類抹殺を目論むという話だ。1920年代に発表された作品とは思えないほど、およそ100年後の現在における問題を浮き彫りにしている。もし、R.U.Rをご存知ない方は、ぜひご購読頂きたい。
A.I.と人の間にあるもの
先日あるパフォーマンスを目にした際に、僕はこのチャペックの作品を思い浮かべていた。
自らを「心體表現家」と称し、己の魂から発せられる感情のうねりを、ストイックに鍛え上げられた肉体を駆使し、舞として放出する。朴訥した普段の語り口からは想像も出来ないような、激しくかつ繊細な舞を披露する宇賀神智(ウガジンサトル)氏。昨今は名脇役としてドラマや映画で活躍されながら、舞踏家として独創的なダンスを見せる田中泯氏と彼が、同じ薫りがするのは僕だけだろうか。
また、宇賀神氏の躍動に、艶やかさと幾許かの安らぎを与えるのが、歌手角張由紀恵(カクバリユキエ)氏だ。ボイスヒーラー・即興SINGERとして活躍する彼女。2年前の冬、突然のように「歌」に目覚め、歌詞のない鼻歌のような、ささやきにも似た歌声で、宇賀神氏のパフォーマンスを彩る。
山元雅信氏により開校され、足掛け24年に渡り続く、大人の寺子屋とも言うべき学びとプレゼンテーションの場「一般社団法人 山元学校」
山元学校では、経営者や起業家、団体職員、政治家、ビジネスマンのほか、学生や各国大使も訪れ、プレゼンや交流を行う。その中には、アーティストたちのパフォーマンスもある。山元学校でも披露された宇賀神・角張両氏のパフォーマンス『AIと人の間』。そこに僕はカレル・チャペックの戯曲『R.U.R』を重ね合わせて見ていた。プラハの小劇場で、人間の手によって操られて動くマリオネットのような宇賀神氏と、心が純粋な子ども時代にしか聞くことの出来ないモスキート音のような、疲れた体にじんわり沁み込むヒーリングミュージックのような囁き声を奏でる角張氏。どちらが人間でどちらがAIなのか、その答えは観手の心の中にのみ存在する。幾重にも幾重にも考えが巡ってくる幻想的な8分間だった。
彼らはこれからますます進化を続け、新しいものを産み出していくだろう。ぜひ二人の今後を追いかけてみて頂きたい。
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