出版社の倒産と本の電子化
出版社の倒産が続く
演劇やミュージカルなどの公演情報を網羅した月刊誌「シアターガイド」に出版を手がけていた(有)モーニングデスクが、2月4日東京地裁から破産開始決定を受けた。1992年に創刊されたシアターガイドは、演劇関連のニュースや劇場案内など詳細な情報を提供し、演劇ファンを中心にピーク時には売上高約4億円をあげていた。しかし、近年の出版不況を背景に、販売部数が落ち込み業績が悪化した。平成30年10月末で業務を停止し、破産申請の準備に入っていた。
「出版不況」を理由に、破産申請を行う出版社が後を絶たない。
歴史ある出版物や出版社でさえ最後を迎えている。破産申請がなされ、倒産してしまった出版社の出版物はその後一体どうなるか?
出版社が倒産した場合、版権を一部引き継いで、別の出版社が販売を続けていくという作品もあるが、殆どの作品は絶版。もう中古以外で世の中に流通することはなくなるのだ。 そういった作品の中には、大量に売れるわけではなくとも、読者に求められるものがたくさんある。例えば学術書や専門書の類は、その分野では読むことを必須とされるような作品が数多く存在する。そういった作品が絶版になり、読者が目にすることもできなくなってしまうというのは、大きな問題だと思う。そういった作品こそ、とても貴重なものであり、後世に遺していく必要がある。
電子化により作品を後世に遺す
インターネットとスマホの登場で、専門性の高い記事も無料で読めるようになった。探せばいくらでも情報は出てくる。また、SNSによって発信者の素性が明確になり、より信頼できる相手から情報を得られるようにもなった。そうなると、情報はネットにアクセスすればすぐに手に入るものという認識も強くなり、本を買って読むという行為は、とても手間で無駄なことだと思う人も多くいるだろう。ただ、ネットでは決して得られない著者の実体験や知識もあるのだ。そういった事が絶版となった書籍の中に眠っていることが多い。現在は流通されている作品も、出版社が業務を停止し絶版となることで二度と手に入れることが出来なくなる可能性があるのだ。
今後紙の出版物は減っていくことが予想されるが、決してなくならないとも思う。これからの出版物の殆どは、紙と電子双方で出されていくだろう。重要なのは、これまでの出版物をどうするかだ。後世に遺すべき貴重な作品は、既刊本の中にも数多存在する。それらを電子化し、蘇らせる必要がないだろうか?国立国会図書館に蔵書されているとしても、その劣化の度合いによっては除籍されることも考えなくてはならない。それは出版界にとっても読者にとっても非常に不幸なことだろう。
ここ最近、専門書の著者から著書の電子化について相談を受ける事が多くなった。著者は自分の作品を遺していきたいのが当たり前であり、その想いを出版社側がどれだけ受け止められるかがポイントになるだろう。電子化にも様々な方法がある。予算をどうするか?印税をどうするか?色々と懸念すべき点はあると思うが、ぜひ電子化を検討してみてもらいたい。日本の知財を後世に遺すために。
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