技術だけでは変えられない?日本の農業
僕の家は、戦後祖父が戦地から戻り、祖母とともに田畑を耕し開墾した農家だ。
農家といっても割と批判を受けやすい兼業農家である。農業高校の実習助手から教員を目指し、高校の校長まで務めた父は、1つの品種を大規模に生産することができない自宅の現状を考え、兼業農家の道を選択したのだ。そんな父は教育界を退職した現在も現役でトラクターを操り、鍬や鋤を持って農業に勤しんでいる。40歳を越えた僕は、そんな父の丁稚奉公のような仕事をしながら、これからの農業のことについて思いを巡らす日々だ。これから先の農業はどうなっていくのだろう?
新しい技術が農業を変えるのか?
先日、幕張メッセで開催された、農業ワールド2018に行ってきた。
農家の小倅として、また出版プロデューサーとして、最新の農業に関わる技術を電子書籍で世界発信してくれる企業を探すために参加した。結論から言うと、昨年よりも驚くほどテクノロジーが進んでおり、特にセンサリングやIoT、クラウドの活用方法、小型化、軽量化、省人化が飛躍的に進んでいた。先日新聞で、外国人労働者の受け入れに関しての新たな条件が発表されていたが、日本もいよいよ本格的に労働力を海外に見出す時が来たかと思う。その中で、新しい技術を使った省人化や効率化は欠かせないことだろう。
目を見張るような技術革新がある一方で、果たしてこれを誰が使いこなすのか?という疑問が湧いたのも事実だ。スマホやクラウドネットを使ったサービスについて、僕はわかる。しかし僕の父は絶対にわからないだろうと確信を持っている。日本の農業従事者の平均年齢が65歳を越える現在、こういった先進技術を受け入れ活用できる人がどのくらいいるのだろう?息子さんや次の世代にお願いして…なんて声もあるが、個人農家のうちどのくらいの世帯が後継者を持っているだろう?テクノロジーだけでは解決できないことも多々あると実感する。
農業だけじゃない、その仕事にどんな想いがあるのかが大事なんだね
三重県は四日市市に、「しなやん」という一風変わったキュウリ農家の若者がいる。彼は脱サラしてキュウリ農家になった。そう聞くとサラリーマンに疲れて、農業に逃避してきたような印象を受ける方もいるかもしれない。しかしながら、この若者の志は半端なものではない。世界一かっこいい農家になり、農業というものがどれだけ素晴らしく素敵な仕事なのかを、身をもって伝えていきたいと考え、彼は様々な手法を駆使して自身の活動を発信している。自身のことを「しなやん」と紹介し、印象に残るようなユニフォームを見にまとい、自身の圃場を「しなやかファーム」という名付け、SNSでその日々の仕事や活動、暮らしを発信している。
しなやんは、マーケットに自分の栽培したキュウリを出す際に、自分の農業についての考えやキュウリへの想いを添えている。それを見た消費者が、想いに共感して買っていくのだ。もしかしたら、そのキュウリは他の生産者が作るものよりも少し割高かもしれない。それでも、その想いや人となりに共感して購入する人がいる。農作物の選び方、買い方は、今後大きく変わるかもしれない。しなやんのSNSを見ていると、そんな期待で胸がワクワクする。また、ただ農作物を作るだけではなく、twitterやfacebookなどのSNSを通じてフェスの開催を発信し、農業とは関わりのないファンを集め、圃場を使って様々なジャンルの仲間達と交流を図っている。農業参入からすでに3回のフェスを開催し大盛況な状態だ。
しなやんがこれから何を考え、どんな農業の在り方を世に発信していくのか、実に楽しみだ。
きっとそこには、最新のテクノロジーよりも、顧客を想う気持ちや日本の第一次産業をなんとかしようという気概が溢れているのだと思う。
農業に関わっていようがいまいが、是非しなやんの今後に注目して頂きたい。
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