ゼロ・ウェイスト入門 科学で考えるごみゼロの未来
最近になって「SDGs」という言葉をよくメディアで見るようになった。SDGsとは持続可能な開発目標と訳され、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標のことだ。持続可能な世界を実現するための17のゴールと、169のターゲットから構成されており、「地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサルなものであり、日本も積極的に取り組んでいるという。日常の中であまり関わることがないSDGsかと思うが、実は国レベルであは様々な取り組みがなされている。そちらは、ネットで調べて頂きたいと思う。
持続可能性とは?
1980年代に生まれた「持続可能な発展(sustainable development)」という概念がある。持続可能な発展は、環境保全と経済成長が対立するものではなく、両立し互いに支えあうものであることを示すもの。環境破壊は人々の健康を害し、経済活動に支障をきたすものであり、経済成長は省資源型の技術開発や、環境保全に役立つ。そこで環境保全と経済成長は、人間社会の良好な発展の両輪として位置づけられた。
1980年代に「持続可能な発展」という言葉が用いられるようになったが、より幅広く社会全般で聞くようになったのは2000年代に入ってからである。その際には、従来よりも広い領域や分野を対象とする「持続可能性(sustainability)」として用いられた。
「持続可能な発展」は、対象とする社会ごとに重要となる要素が違ってくる。世界全体を対象とする場合は、途上国の貧困や地球規模での環境問題が重要な項目とんる。しかし先進国を対象とした場合は、更なる「発展」よりもむしろ現在までにすでに達成された豊かな状態を維持させることのほうが重要と考えられるかも知れない。国内の自治体を対象とした場合は、その地域における特有の課題が最重要項目となるだろう。
日本におけるゼロ・ウェイスト
自治体レベルで持続可能性を考えるとき、「ゼロ・ウェイスト宣言」が鍵になる。
ゼロ・ウェイストとは、ごみゼロ(出てきた廃棄物をどう処理するか)ではなく、そもそもごみを出さないという考え方だ。「焼却・埋め立て・何でもリサイクル」がもたらすのは、資源の無駄遣いと有害物質による健康被害と水質汚染など環境への悪影響だった。ゼロ・ウェイストは、そんな社会の仕組み自体を変えていこうとするものだ。
経済の成長が右肩上がりになると、廃棄物の量も右肩上がりになった。それを処理するための手段として、主に焼却と埋め立てが採用され、日本人はごみを燃やすことが当然のこととなった。しかしその処理を続けていくことは、後世に大きなツケを残すことになる。焼却や埋め立ては資源の無駄遣いを助長し、健康被害や環境破壊を起こす危険性が大いにある。そこで、自治体レベルでごみゼロ(ごみを出さない)の仕組みづくりに取り組む自治体が現れてきた。これがいわゆる自治体における「ゼロ・ウェイスト宣言」だ。
現在日本国内で、ゼロ・ウェイスト宣言をしているのは、徳島県上勝町、熊本県水俣市、福岡県大木町、奈良県斑鳩町の4つの自治体だけである。いずれも西日本に分布しているが、現在北海道をはじめとした東日本の各自治体でもゼロ・ウェイスト宣言の動きが出てきている。
私たち市民が持続可能な発展、持続可能な社会を考える上で、ゼロ・ウェイスト宣言は必要不可欠なことだと思う。
『ゼロ・ウェイスト入門 科学で考えるごみゼロの未来』
10年前からこのゼロ・ウェイストに取り組み、東京都町田市でごみゼロ市民会議を立ち上げ、市民とともにごみを出さない仕組みづくりや生ごみを田んぼや畑で再利用するなど、様々なことを実践してきた人物がいる。それが『科学で考えるごみゼロの未来』の著者である、広瀬立成氏だ。広瀬氏は東京工業大学大学院博士課程を修了後、東京大学原子核研究所、東京都立大学理学研究科教授、早稲田大学理工学総合研究センター教授など、物理学者として活躍された。そんな広瀬氏が、科学の視点から持続可能性を唱え、科学の視点から考えたごみゼロの未来をまとめたのが本書だ。広瀬氏は、現在も日本各地で講演活動を行い、自治体のゼロ・ウェイスト宣言を支援している。
「持続可能な社会をつくるために、国の取り組みも大事だが、市民レベルでできることをから始めていき、大きなうねりを生み出していくことが重要だ」と広瀬氏は語る。本書をお読み頂き、ぜひ日々の暮らしの中でごみを減らす参考にしてほしい。
電子版『ゼロ・ウェイスト入門 科学で考えるごみゼロの未来』(広瀬立成 著)
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