既存の制度が出版業界を追い込む
物流の仕組みが大きく動く時
無いものは無いと言われるほど、品数豊富なアマゾンストア。今や何か欲しいものがあったら、スーパーやショッピングセンターへ行くよりもまずアマゾンをチェックする。もしアマゾンでも売ってなければ、リアル店舗には無いだろう。自分の中でそんなセオリーまで出来上がっている。みなさんも同じようなことがないだろうか?大きなものから小さなものまで、大量購入から一個の購入まで、あらゆるニーズに対応しているアマゾン。その影響は運送会社の人材不足や、物流費の高騰に大きく影響している。
そんな中、交通と物流の事業者が連携し、路線バスで乗客と貨物を一緒に運ぶ「貨客混載」を始めたという。福井県池田町を走る路線で、ヤマト運輸が、福井鉄道と連携して実施しはじめた。バスで荷物を運ぶことで、配送ドライバーが同町内に滞在する時間が約2時間延びて、時間指定や再配達の希望に応えやすくなるそうだ。バス事業者は、物流業者からの収益を過疎地域を走る路線の維持などに役立てる。これは過疎地域で車を持っていない高齢者などにはありがたいことかもしれない。
ヤマト運輸の同町内担当のドライバーは、これまで配送センターと町を1日3往復していた。昼を貨客混載とし、両市町の往復を朝、夜の2回に減らすことで、移動時間を80分ほど短縮できるという。そうなれば、ドライバーの休憩時間も確保することが可能だ。とても画期的な取り組みだと思う。
旧態然とした制度が変化に取り残されていく
物流費の高騰は、出版業界にも追い打ちをかけている。
取次大手のトーハンの最大の取引先である日本通運が、出版物の輸送からの打ち切りを申し入れてきたのだ。深夜の労働条件の改善や、日通への委託費も年2億6000万円増やして事を収めたものの、出版物の配送費を26年ぶりに出版社へ「転嫁」することを決め、出版社との交渉を始めている。物流費の高騰もさることながら、著作物の再販制度(再販売価格維持制度)がここにきて出版業界全体を苦しめはじめているのは間違いない。
「著作物の再販制度(再販売価格維持制度)とは、出版社が書籍・雑誌の定価を決定し、小売書店等で定価販売ができる制度で、全国の読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくために不可欠なものであり、また文字・活字文化の振興上、書籍・雑誌は基本的な文化資産であり、自国の文化水準を維持するために、重要な役割を果たしています。」
2001年4月一般社団法人日本書籍出版協会このように書かれている。どの書籍をどの書店に届けるかは取次に委ねられ、書店は届いた段ボールを開けるまで中身がわからない。出版社も自社の書籍がいつどこで売れたかに強い関心を示さなかった。出版社は取次に書籍を渡しさえすれば、数カ月後に一定の収益を得られる仕組みなのだ。
しかしながら、時代は変わった。
アマゾンが現れ、書籍販売では一部の既刊本について出版取次大手の日本出版販売(日販)を介さず、出版社から直接取り寄せる方式に変更した。本がディスカウントできるアメリカでは、アマゾンは割引販売によってシェアを獲得してきた。それに対し、再販制度によって本が定価でしか売れない日本においては、送料をタダにしても儲かる。アマゾンの影響もあって、ECサイトでの買い物は暮らしの中でスタンダード化し、本については電子書籍をストアで購入し、アプリで読むようになってきた。
仕組みや環境の変化に対して、日本の出版業界は依然として既存の制度に乗ったままでいる。その間にも、アマゾンをはじめとしたネット書店、ネットパブリッシュサービスが、読者はおろか著者までかっさらっていこうとしているのだ。
もともとは出版文化を維持する目的で生まれた再販制度が、今は出版業界の首をじわじわと絞めて始めている。
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