アマゾンによる既存出版流通方式崩壊の仕掛け
アマゾンが7月18日、北米のキンドルサービスに「Buy For Others(他の人のために買う)」機能を追加したと、経済誌フォーブスが報じた。著者がファンや関係者にレビュー用コピーを献本し、1人で何冊も一括購入できる機能だという。新機能の追加はキンドルのセルフパブリッシングサービス「Kindle Direct Publishing(KDP)」の利用者にメールで通知され、詳細はKDPのヘルプページに記載されている。日本向けのサービスではまだサポートされていない。
アマゾンが既存出版流通方式を崩し始めた
この機能が追加されることで、著者がSNSを通じた電子書籍の無料配布を行なったり、本がもらえるキャンペーンをしたり、サイン会や出版講演などのイベントでの活用が想定される。また、書評用に献本できるなど、著者がマーケティングを行なう上で強力なツールになるだろう。Buy For Othersの対象となるデバイスは、キンドルに対応する全ての製品となっていて、リンクの有効期間は60日。著者は自身で購入した書籍代金からも、通常と同額のロイヤリティが受け取れるそうだ。キンドルでセルフパブリッシングを行う著者にとって、嬉しい機能だろう。
ただ、一部の著者の間からはこの機能の有効性を疑問視する声もあがっているという。
わざわざレビュー用のコピーを自分で買わなくても、著書のPDFファイルを送れば無料で本の宣伝はできるし、著者自らの購入によりランキング操作にも繋がる可能性があると指摘する、ベテランのセルフパブッリシャーもいる。
賛否両論意見は色々とあるが、個人的にはこの機能はさらにセルフパブリッシングを加速することにつながると思う。Kindle Direct Publishingで出版している人も多いかと思うが、出版した後どうやって売るか?がまず直面する課題ではないだろうか?Kindleでの独占販売により、ある程度のプロモーションはできるとしても、爆発的著書が売れるという人はほんの一部にすぎない。自分の記念として、趣味としてセルフパブリッシングを行うならさほど売れなくてもいいのかもしれないが、それでも著書を多くの人に読んで欲しいという思いはあるはずだ。著書を広めてレビューをもらうという意味では、Buy For Othersは画期的な仕組みになる。
読み放題のサービス(Kindle Unlimited)、プリント・オン・デマンド(POD)、そしてBuy For Others。アマゾンによる電子書籍関連の仕組みが次々と打ち立てられる中、日本の出版業界はどんな手を打って世界中の読者にコンテンツを発信し、本を買ってもらうか。アマゾンにより課題が突きつけられているようだ。
否が応でも電子書籍市場は拡大していく
株式会社インプレスのシンクタンク部門であるインプレス総合研究所が、2017年度の電子書籍市場規模について前年比13.4%増の2,241億円、電子雑誌市場規模は前年比4.3%増の315億円と発表した。
出版市場における電子書籍、電子雑誌の規模は、まだまだ小さいものかもしれない。しかしながら徐々にその割合は増加しており、国内のみならず海外新興国のスマホ保有率の増加と、アマゾンが仕掛ける電子書籍サービスの拡大によって、一気に市場が様変わりすることも予想できる。その時になって策を講じるのではあまりにも遅い。
著作者との契約取り直し、電子コンテンツの制作、紙書籍の売り上げ減少、利益率の低下などなど、著作者にとっても出版社にとっても二の足を踏む理由が多い電子書籍だが、うっかりすると時代とユーザに取り残されていたということになりかねない。アマゾンのBuy For Othersが警鐘を鳴らしている気がする。
「新規出版」「既刊本の電子化」「電子献本」すべてお手伝いします
詳しくはこちらから
http://www.g-rexjapan.co.jp/omoikaneproject/event08/
関連記事
-
飲み会もオンラインでやる時代がきた
2019/10/01 |
今日はこのこと↓について、30人ほどの方と話をしました。 建築現場をアートで彩る「まちかど障が...
-
そろそろ図書館が電子書籍を導入する時が来た
2016/11/19 |
11月10日EU裁判所が、オランダの図書館がE-Book貸出の合法性確認を求めて提訴していた裁判で、...
-
どんな本を発信するかが大事
2016/11/09 |
食べ放題も飲み放題もあまり好きではないTakaです。だって、そんなに食べられないし、飲み放題の中に好...
-
主体性を育むフィンランドの子育て
2019/06/24 |
主体性を育む子育てとは 主体性と自主性の違いは何か? よく聞く言葉だが、明確な区別をせずに使って...
- PREV
- さらに多様化する読書環境
- NEXT
- メディアにのらない「なま」のパキスタン