電子書籍の強みを生かした出版をしよう
いまだ続く紙か?電子か?論争
Forbes JAPANに、
“「米国のアリゾナ大学とタウソン大学の研究者らが、電子書籍と紙の書籍の所有が人々にもたらす、心理的違いについてのレポートを発表した。」という記事があった。「消費者は本のデジタル所有をどうとらえているか」と題された論文が先月、国際ジャーナルの「Electronic Markets」で公開された。そこでは電子書籍がもたらす読書体験が、紙の書籍とどう異なるかが記されていた。”
という記事があった。
この研究によると、調査に参加した消費者は「紙の書籍はデジタルよりも精神的な結びつきを感じさせ、所有の感覚が得られる」と述べたとある。「読書好きの人々は電子書籍には“本の匂い”がないことを以前から嘆いていた」とも。さらに電子の場合は、デジタルコンテンツの利用や複製を制限するために設けられている仕組みであるDRMが、友人らと作品をシェアをする場合の妨げになっているとしている。そして、電子のメリットとして、「テキストのサイズを変えたり、旅先にでも好きなだけ読みたい本を持っていける」ということを挙げている。研究の結論として、電子書籍と紙の書籍は全く異なる性質を持つ異なるプロダクトだと述べているというのだ。
「まだこんなことが言われているんだなぁ」というのが率直な印象だ。
紙と電子の違いについては、散々このブログでも書いてきたが、まったく異なるプロダクトというのは、もう2年ほど前から認識している。そもそも、電子書籍は本ではない。電子書籍に「本」を見出そうとするから、匂いや手触り、所有感などという話が出てくる。電子書籍という名称も良くないのかもしれない。書籍と呼ぶ以上、そこに「本」を求めたくなってしまうのは理解できる。しかし電子書籍は本ではないと考えた方がいいと思う。
電子書籍とは何か
では電子書籍は何なのか?
ネットや他のアプリとの連携が可能で、集約された情報を携帯端末で閲覧することができる本の見せ方をするデジタルコンテンツ。とでも言おうか。前述の電子のメリットは至極当たり前のことで、電子書籍には様々なメリットがある。例えば、本を読みながら知らない言葉を検索して調べたり、線を引いたりハイライトした箇所を保存して読み返したり、気になる箇所や図式などをスクラップしたり、リンクからウェブに移行したり、フォームから問い合わせや申し込みができたり(これは当社のオリジナルだが)などなど、機能的なことを挙げればきりがないほどだ。
2018年5月28日付で博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が発表した「メディア定点調査」の最新版「メディア定点調査2018」では、スマートフォンの所有率は79.4%とされている。この8割近い人々が持つ端末で、電子書籍は閲覧することが可能なのだ。ネットワーク上で作品を共有することも可能なわけで、本来は友人・知人とのシェアもできる。そこは出版各社によってDRMによる制限がかけられているが、僕は逆にこの特性を生かしてどんどんシェアしてもらい、SNSでの発信を促すことで、作品をどんどん拡散してはどうかと思っている。もちろん、そんなことをされたらコンテンツが売れなくなり、出版社としては売り上げが落ちることが懸念されるだろう。それならば、作品の一部やダイジェスト版、一作目だけをシェア可能にして、本作や二作目以降はDRMで守るという方法をとってもいいのではないだろうか。
いずれにしても、電子書籍はデジタルの強みを生かして、情報としての作品をより多くの人に見てもらうことが最大のメリットであると思う。海外で紙の書籍を出版し販売することは、かなり手間と時間と費用が必要だが、電子書籍なら数秒で海外の読者に届けられる。これもデジタルの強みだろう。
「電子がいいのか?紙がいいのか?」といった議論はもうやめにして、電子と紙を上手く連携させることで、作品の拡散やビジネスチャンスに繋がるようなコンテンツ作りをしていきたいものである。
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