電子化による進化と変化を
『賢者のおくりもの』という作品があります。アメリカの小説家オー・ヘンリーの代表作となった、とても有名な短編小説です。
若くして夫婦になったジムとデラ、貧しくも互いを愛して暮らす夫婦が、互いを想いクリスマスプレゼントを贈ろうと考える。夫のジムは、妻が欲しがっていた鼈甲の櫛を、妻のデラは、夫のジムが祖父と父から受け継いで大切にしている金の懐中時計を吊るす鎖を、それぞれ買おうと考え、お金を工面する。ジムは、自慢の懐中時計を質に入れて、デラは自慢の美しい髪を当時あった髪の毛を売る商人の元で、バッサリ切り落とし売ってしまう。
クリスマスの夜、夫が妻のために用意した櫛がとかすべき美しい髪は、もはやその姿はなく、妻が用意したプラチナの鎖をつけるべき懐中時計は、すでに夫の手元にはなかった。一見無駄になってしまったこの行き違いは、物語の結びで最も賢い贈り物であったと結ばれています。皮肉な話ではあるが、とてもハートウォーミングな作品です。
■ 大切な作品だからこそ電子にしたい ■
縁あって、今年久しぶりにこの作品を読む機会がありました。老舗出版社である有限会社冨山房さんへ訪問した際に、その本棚に「賢者のおくりもの」を見つけました。有限会社冨山房さんから出版されているこの本は、装画をオーストリアのイラストレーターである、リスベート・ツヴェルガーが手がけている。中の挿絵もツヴェルガーによるもの。繊細なタッチと、淡く優しい色彩は、この作品にぴったりだと思う。サイズは特殊で、通常の本のサイズには無いもの。その独特の容姿が存在感を示しています。
そんな作品であるからこそ、紙の本として手に取って欲しいという想いはよく理解できます。僕自身もこの本は紙で読んで欲しいなと思う。他にも紙で読みたい本ってありますよね。大きさもそうですが、質感だったり、色合いだったり、匂いだったり、本に対して五感で味わう人も多くいるのではないかと思います。そういう作品は長く愛され、購読者も絶えることは無いのかもしれません。しかし、版元の事情で出版されなくなることはあるでしょうし、紙の原料である森林の伐採により、紙製品の製造中止なんてことも、考えられるような環境になってきました。今から30年、50年の間にどんなことがあるかわからないわけです。
■10年前スマホなんてものは存在しなかった ■
さらにスマホアプリによって、これまでの娯楽の多くがスマホの中で展開されるようになり、本よりもニュースやSNS、ゲームといったコンテンツに人々がシフトしています。そのような状況下で、本はこのままの出し方、売り方、読み方だけでいいのか?と僕は考えています。かといって、全部電子書籍で出版するなんてことは言いません。ただ、電子のデータも用意し、これから育ってゆくスマホネイティブの子どもたちを視野に入れて、準備しておく必要があると思うのです。
前出の冨山房とはまた別の、とある老舗出版社の若手の方が言っていた言葉で「老舗だからこそ、専門性が高いからこそ、新しいことにチャレンジしていかないとダメなんです。自分たちが進化をしなければ、業界なんて変えられない」
いつの時代も、進化、変化をやめては衰退あるのみですものね。変わることを恐れず、踏み出して行きましょう!みんなでね。
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